上村彩子アナが語る北京五輪取材の感動。「ボロボロ泣いた」というフィギュアスケート選手の演技とは (5ページ目)
ネイサン・チェンが示した強い意志
ちなみに、羽生選手を加えた日本の3選手がグリーンルームにそろっていた時にどんな会話をしていたのかも聞いてみたんです。すると、鍵山選手が、ネイサン・チェン選手(米国)の演技を見ながら「もうやばい。高難度の構成に安定感、すべてにおいてやばい」と大絶賛。宇野選手も「今大会のネイサンのような存在になりたい」と言うくらい、確かに彼の演技は団体戦も個人戦も圧倒的な内容でした。
私は今大会、フィギュアスケートを含めたくさんの競技を見てきて、目がウルっとするシーンは多々ありましたが、じつは、涙がボロボロ出てくるほど泣いたのはネイサン選手のフリーの演技だったんです。
もともと好きな選手だったということもあるのですが、平昌大会ではショートの演技でミスを連発して17位となり、フリーで巻き返したものの総合5位。心身ともにボロボロになった姿を見ていましたから、感極まってしまって。今回、その時の怖さもあったと思うんですけど、本当に他を寄せつけないほどの圧倒的な存在感を放っていました。平昌で羽生選手の演技最後に決めたポーズを見た時以来の衝撃で、もう絶対王者として君臨しているな、と。
それに演技以外でも、今大会にかける想いが伝わってくるシーンがあって。個人戦が始まる前の団体戦でのひとコマですが、滑り終わってキス&クライに向かう時、少し呼吸を整えてからマスクをつける選手が多いなか、ネイサン選手は真っ先に装着していたんです。「コロナにかかるわけにはいかない」という意志の強さを感じました。彼の母親が北京出身でルーツがあるというのも、よりこの大会に気持ちが入った理由のひとつかもしれません。
私は、メダリストセレモニー会場で初めてのインタビューをしようと待ち構えていたのですが、宇野選手と鍵山選手に話を聞いている間にうしろを通り過ぎてしまって......。人生で一番近い距離にネイサン選手がいたので、せっかくなら話しかけてみたかったですね。英語で5〜6問、質問も用意していたのに(笑)。
彼は名門・イエール大学で、将来的に医者を目指しているようなので、次回の五輪出場の可能性は低いのかなと思うと残念ではあります。ですが、今大会の取材を通じて、次はまた日本選手が表彰台の頂上に上がる姿を見られるかもしれない。そう肌で感じることができたので、4年後に向けて楽しみが増えました。
最後に、北京五輪は多くのアスリートから前人未到の領域に挑む勇姿を見させてもらい、とても心を動かされた大会となりました。新型コロナウイルスによって行動が制限されるなかでも、競技を通じて「挑戦する勇気を持つことの大切さ」を、選手たちから教えてもらえた気がします。
ネイサン・チェン選手の演技を見て「ボロボロ泣いた」と上村アナこの記事に関連する写真を見る■プロフィール
上村彩子(かみむら・さえこ)
1992年10月4日、千葉県生まれ。
【担当番組】
『S☆1』(土/24:30〜、日/24:00〜)、陸上・サッカーなどのスポーツ中継、Nスタ(水・木)、『JNNニュース 1130』、『ひるおび!』内ニュース、『ゴゴスマ〜GOGO!Smile!〜』内ニュース(木・金)、『東大王』(ナレーション)
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