上村彩子アナ、スポーツ報道の原点は母への"怒り"。ノムさんが教えてくれたこと、サッカー日本代表の恐怖の取材も振り返る

  • 山本雷太●撮影 photo by Yamamoto Raita

連載『上村彩子 RUN SAEKO RUN!』最終回

■TBSの上村彩子(かみむら・さえこ)アナウンサーがインタビューしたアスリートの魅力や意外な一面、現場で取材した大会でのエピソードや舞台裏などを伝えてくれるこの連載。2019年8月掲載の第1回から約2年8カ月に渡ってお届けしてきましたが、スポーツ番組の"卒業"に伴って今回で最終回を迎えます。スポーツキャスターとして、週末の『SUPER SOCCER』を4年、『S☆1』を5年間担当し、視聴者にスポーツの感動を届け続けてきた上村アナ。試合や大会の場に足繁く通った日々を振り返ります。

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この春、スポーツ番組『S☆1』担当を卒業した上村彩子アナウンサーこの春、スポーツ番組『S☆1』担当を卒業した上村彩子アナウンサーこの記事に関連する写真を見る

スポーツキャスターとしての"原点"は母の言葉

「あんなに練習したのに、本当に10数秒で終わっちゃうんだね」

 ほぼ毎日、陸上部の活動に明け暮れていた高校時代の私が、大会で100mハードル走に出場した時に、見に来てくれた母親に言われた一言です。それが衝撃で。「娘が頑張っているのに、ちゃんと見てたのかなぁ」とちょっとした怒りを感じつつ(笑)、「こんなにおもしろい競技なのに、そう感じちゃうんだ」と、驚きました。

「競技の魅力や楽しさを伝えたい」という思いが心の中に芽生えたのは、思い起こすと母親のこの言葉が原点でした。スポーツキャスターとしての5年間、私は自分自身のこの体験を何度も思い出すことになりました。

『S☆1』キャスターに就任したのは2017年4月、TBSに入社して3年目の頃でした。スポーツ番組を担当するとはまったく予想していませんでした。当時の『S☆1』は、スポーツ好きの爆笑問題の田中裕二さんとタレントの小島瑠璃子さんが一緒にメインキャスターを務めていて、まさか、それまでニュース原稿を読むことがほとんどで、まだバラエティ番組などの経験も少なかった私が入るとは思ってもみなかったからです。

 それまで番組に直接の関わりはなかったものの、雰囲気を感じとるだけでも、今後何かにつながるかなと思っていたのでスポーツの現場には通っていました。たまたま、その姿を『S☆1』のプロデューサーが見ていて、「スポーツと真摯に向き合ってくれるかもしれない」と私を起用してくれたんです。入社以降、半年に一回つけていた"野望ノート"には「『S☆1』できたらいいな」と書いていたので、声をかけてもらった時は本当にうれしかったですね。

 ただ、実際に番組を担当してみて感じたのは、専門性が高い番組ならではの難しさでした。もともとスポーツが好きだったり、試合の勝敗が気になっていたりと見る目的がはっきりしている番組ではあるものの、それ以外の視聴者にも届けたい。前者に満足してもらいつつ、後者にもおもしろく、また興味をもって見てもらうにはどうすればいいのか。

 高校時代の母の言葉を思い出しながら5年間ずっと考え続けました。それは私を含め、ともにメインキャスターを務めていた伊藤隆佑アナ、高橋尚子さんや松田丈志さんといった解説者の方々も同じです。初心者にも間口を広げながら知れば知るほど興味深くなっていくような情報を届けるのは、本当に工夫が必要で難しいことだったんです。

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