「大学卒業までひとりあたり平均2200万円」は高いのか。教育費問題を投資の観点から考える (3ページ目)
【バカ高い海外留学のコスト】
奥野「彼女がアメリカに行くことを決断した理由には、教育者のひとりとして、なかなか考えさせられるものがあったんだ。インタビューで彼女が言っていたのだけれども、日本の音楽の授業が嫌いだからなんだって。で、なぜ日本の音楽の授業が嫌いなのかというと、『決められたやり方で正確に演奏することが求められ、自分の好きなようにアレンジして演奏できないから』。
この言葉に、日本の教育の限界があるように思えて仕方がないんだよ。日本の公的教育は、国民全員の教育水準を底上げするにはよかったし、それは日本が、かつて後塵を拝していたアメリカや欧州各国に追いつくところまでは十分に機能していたと思うんだ。でも、突き抜けた天才、エリートが持っている才能をさらに引き出し、世界で唯一無二の存在にまで昇華させるには不向きである、という現実を突きつけられた気がするんだ。
ただし、日本の教育には期待できないから、才能のある子供は海外のエリート養成校のようなところで教育を受けたほうがいいってことになると、今度は経済的な問題が生じてくる。
海外、とりわけアメリカの私立校の授業料はバカ高いからね。ちなみに東海岸のエリート校で有名なハーバード大学の場合、1年間の学費は5万ドルを超える。1ドル=135円で計算すると、年間の授業料だけで675万円。これに寮費などの生活費がかかるから、年間1000万円くらいのお金が簡単に飛んでいってしまう。4年間、通ったら4000万円。そこから考えれば、小学校から大学まで私立校でも約2200万円という日本の教育費なんて、可愛く見えてしまうくらいだよ。
それを承知のうえで、『世界で通用したい人間になりたいなら海外の大学に行ったほうがいい』なんて言うと、今度は『貧富が固定化されてますます格差が広がる』という批判が飛んでくる。お金持ちの家の子は質の高い教育を受けられるが、貧しい家の子は質の高い教育を受けられないので、貧困が連鎖して貧富の差が拡大するっていうことだね」
鈴木「そんなにお金がかかるんじゃ、うちのお母さん、『絶対にハーバード大学なんて行くな』と言うと思う」
由紀「うちも難しいだろうな。先生は以前、『いま働いてお金を稼ぐのではなく、教育を受けて将来もっと稼げるようになる』というのも投資の考え方の一種だとおっしゃってましたよね。その投資ができないということですか」
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