イブラヒモビッチが完璧なのは、フィジカルの面だけではない

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】現代のスーパースターたち(前編)

 先日の夜、僕はパリ・サンジェルマンの試合で、選手たちがピッチへ出る前に通り抜けるトンネルの中にいた。ズラタン・イブラヒモビッチがそばを通ったとき、僕はひるんだ。
 
パリ・サンジェルマンでもゴール量産中のイブラヒモビッチ(photo by Getty Images)パリ・サンジェルマンでもゴール量産中のイブラヒモビッチ(photo by Getty Images) このスウェーデン人FWを近くで見ると、まさに「スーパーヒーロー」と呼びたくなる。身長は195センチ、胸回りはグラマーな女性さえ上回る。おまけに、長年にわたって毎日欠かさずトレーニングをし、野菜を食べ、昼寝をして頑強な体をつくった男のハングリーな輝きがある。

 今の偉大なフットボール選手は昔のプレイヤーとは比較にならないほど、すばらしい肉体をしている。けれども彼らが完璧なのは、フィジカルな面だけではない。フットボールの歴史のなかでも、今は選手がスターになるのに最高の時代だ。フットボールそのものがスターを生み出す方向に変わってきた。最近のFIFA最優秀選手賞の授賞式は、ハリウッドの黄金時代に行なわれていたアカデミー賞授賞式に似てきている。

 思い返せば、以前のフットボール選手はロックスターのような生活をしていた。グルーピーに追い回され、体は30歳までもたないと選手自身が思っていた。大金を稼いでいたわけでもない。今年1月に他界したポルトガルの往年の名選手エウゼビオが1969年にベンフィカからもらっていた年俸は約4000ポンド(当時のレートで約350万円)だった。

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