「選考会前に寝坊」と大物感が漂う水泳の新星・成田実生 個人メドレーで2冠達成も本番前は「不安になっていた」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 二宮渉●撮影 photo by Nonomiya Wataru

 こう話していた成田の2種目目は中4日で調整も難しかったが、予選は余裕のある泳ぎに徹して4分41秒28で1位通過を果たした。午後の決勝では「最初のバタフライと次の背泳ぎは『楽に速く』を意識し、平泳ぎから一気にスピードを上げていく感じで自由形につなげる」という成田のレースプランに対し、東京五輪出場の谷川亜華葉(イトマン/近畿大)が前半から積極的な泳ぎをしてきた。バタフライで成田に1秒51先行すると、次の背泳ぎでは2秒20差まで広げた。

 成田は、バタフライで6番手、背泳ぎは4番手で通過。だが本人はそれを意識していなかったという。レース後に通過順位を知ると「エーッ!」と絶句し、「順位はあまり気にしていなかったんですけど、ちょっとビックリです」と言い、1分03秒65のラップタイムも「予選より悪かったので、ちょっと遅かったですね」と振り返る。

 自己新を狙いながらも、200m通過も予選より0秒27遅くなった理由をこう分析した。

「いつもバタフライは遅いので。予選より楽に速く泳げてタイムを上げられたらよかったけど、背泳ぎの時に『これ以上スピードを上げたら後半に響いてしまう』というのも感じていたので、ちょっと遅くなっちゃったかなと思います」

 しかし、自信を持つ平泳ぎからは強かった。300mの手前で谷川をかわすと、自由形では突き放し、1秒01差まで広げて4分36秒89でゴール。

「派遣Ⅲを目標にしていたのであとちょっとで届かなかったのは悔しいし、やっぱりそこが足りないところかなという気持ちもあります」と言うが、パリ五輪参加標準記録Aは1秒64上回って2種目目の世界選手権代表に内定。「目標にしていた2種目で世界選手権にいけるし、こういう大舞台の勝負がかかったなかで優勝できたことはすごくうれしい」と笑顔を見せる。

 だが、この大会は自信を持って臨めたわけではなかった。

「年末年始の練習もよくなかったし、3月半ばぐらいに朝寝坊して練習ができなかった時もあって、けっこうショックでした。本当にアラームの音が聞こえなくて、起きたら9時45分で練習が終わるくらいの時間でした。コーチには『選考会の前に朝寝坊する人なんかいないよ』と笑いながら言われたけど、多分怒っていたと思う。今だから笑って話せる感じだけど、けっこう不安になったので反省しています」

 ちょっとした大物感も漂わせる成田だが、この大会期間中はほかの選手たちを観察していた。苦手にしているバタフライでは、200mで優勝した三井愛梨(横浜サクラ/法政大)を見て「力が入っていない感じの泳ぎがカッコいいので、ああいうふうになれたらいいなと思った」と言う。また「瀬戸大也さんは控え場所が目の前のスペースで、泳ぎやインタビューを見てもすごく充実している感じだったし、自信がみなぎっている感じですごかった。私も世界選手権までには自信がつける練習をして、自信がみなぎるような泳ぎができるように頑張りたいと思います」と話す。

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