不振が続くリオ五輪銀メダリスト。
競泳・坂井聖人に何が起きたのか (2ページ目)
ゴールにタッチした瞬間は何位なのかわからなかったが、横を見たらフェルプスがいた。
「えっ?」
そう思い、電光掲示板に視線を向けた。坂井は視力が悪く、コンタクトレンズをしていないので、ボヤけてよく見えなかった。「何位なんだろう」と思い、コース台のランプを見た。それは選手の順位を示すランプだった。坂井のコース台のランプは2つ点灯していた。
「2位かって思って、思わずガッツポーズが出ました」
しかし、すぐに冷静になり、あれだけ追い込んでも金メダルを獲れなかったことに悔しさが募った。最後、どのくらい離されたのか、コーチにラップタイムを聞いた。
「0.04秒差だ」
人差し指の第一関節ぐらいのわずかな差だった。坂井は驚異的な泳ぎを見せ、ラスト50mで唯一の29秒台を叩き出し、失速したフェルプスを追いつめたのだ。
「0.04秒差って言われると、余計に悔しくなりました。ラスト50mでもっと攻めればよかったし、あと5mあれば差せたなとか、いろいろ考えました。でも、これが世界を制してきた選手との経験の差でもあるなって思いましたね」
タイムは1分53秒40、自己ベストだった。タイムはもちろんすばらしいが、それ以上に坂井にとって価値のあるメダルだった。
「このときはメダルを狙い、獲りにいって獲れた。『メダルを獲れたらいいな』っていう考えだと獲れないし、失敗することが多いんです。まぐれで獲れたメダルではないので、価値はすごく大きいと思っています」
もちろん、気持ちだけではメダルは獲れない。
「僕の調子が完全にハマりましたね。決勝のレースに最高のコンディションになるように高地トレーニングから下山する日を考えるなど、ピーキングがばっちりうまくいった。隣にレクローがいるなどコースにも恵まれました。何もかもすべてがうまくいったからこそ獲れたメダルでした」
世界王者フェルプスを追いつめたレースは日本中を熱狂させた。坂井は一躍、水泳界のヒーローになったのである。
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