メダリスト松田丈志の現地ルポ。「五輪と世界水泳は何が違うのか」 (2ページ目)

  • 松田丈志●文 text by Matsuda Takeshi photo by Insidefoto/AFLO

 先に五輪と世界選手権の違いは「本気度」だと言ったが、その本気度の差は五輪での「悔しさ」に因るところが大きい。

 私が注目している400m個人メドレーには大きな「悔しさ」を抱き、大会に臨む選手たちがいる。それは瀬戸と米国のチェーシュ・カリシュ選手だ。ともに昨夏のリオ五輪では400m個人メドレーで金メダルを目指したが、萩野に敗れた。その悔しさは相当なものだったのだろう。両選手とも今シーズンは五輪後とは思えない仕上がりの良さを見せている。

 銅メダルだった瀬戸はリオ五輪直後から動き始めた。W杯を転戦し、レースとトレーニングを続けてきた。4月の日本選手権では萩野を破って初優勝し、6月のセッテコリ杯でも自己ベストを更新している。こちらが疲労を心配してしまうほどのスケジュールだが、元来オンとオフの切り替えはピカイチにうまい選手だ。しかもリオ五輪後からは栄養面にも徹底的にこだわっており、コンディション作りに抜かりはないように見える。きっと世界選手権にドンピシャに合わせてくるだろう。瀬戸はこの種目世界選手権2連覇中で3連覇のかかるレースにもなる。

 一方、銀メダルだったカリシュも好調だ、6月の米国選考会では今季世界ランク1位となる4分06秒99で制している。伝説のスイマーとなったマイケル・フェルプス選手を育てたボブ・ボーマンコーチに師事する23歳だ。

 昨年のリオ五輪中、400m個人メドレーで萩野が金メダルを取った日、大会会場から選手村に戻るバスの中での海外コーチ同士の会話が忘れられない。

「日本の萩野がアメリカの6連覇を止めた」

 実はこの種目、アメリカが五輪5連覇中だった。今のカリシュとボブ・ボーマンからは、水泳大国アメリカのプライドを背負って、この種目の王座を奪還しにきている気迫を感じる。

 リオで逃した金メダルを東京では絶対獲りたいと思っているはずだ。

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