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【指揮官と箱根駅伝】中央大・藤原正和が一度きりの2区で奪取した区間賞と指揮官として目指すもの (3ページ目)

  • 和田悟志●取材・文 text by Satoshi Wada

【監督として見据えるもう一つの頂点】

 実業団のHondaで活躍したあと、2016年に駅伝監督として母校に帰ってきた。

「(自分の学生時代と比べて)箱根駅伝の捉え方は、180度、さらにもうひと回りして540度ぐらい変わりました。これはもうとんでもないことになっていると思うぐらい、インパクトの違いがありました。トレーニング、走る量、ポイント練習の質、生活、熱量、それらすべてが非常にレベルが高い。今の時代は当時を凌駕しています。

 当時の選手のほうが上だったと思えるのは、マネジメント力というか、自分で自分の問題を解決する能力、自分を深く知る能力ですね」

 こう話すように、自身が学生だった頃とは、箱根駅伝がまったく別物になっていることを素直に認めつつ、後輩たちの指導に当たっている。

 就任1年目、チームは予選会からの出発だった。初陣は予選会で次点の11位とまさかの本選出場を逃す結果に終わった。中大として本選出場の連続出場記録が「87」で途絶えてしまった。

「朝練習の時に酔っ払った人から電話がかかってきて、『お前のせいで予選会で落ちた』とかなんとか延々と言われたり、本当にしんどかったですよ。でも、当時の中大が抱えている問題点を解決しないことには、監督を替えたところでよくなるわけではない。そういったことをレポートに書いて大学に提出しました。わりと保守的な大学ですが、ああいう事件(予選落ち)があったから、箱根に真剣に取り組んでくれるようになったのだと思います」

 今は、予選会校に甘んじていた時期からは脱して、中大は再び上位争いの常連となっている。なかなか優勝には届かないものの、毎年のように優勝候補にも名前を連ねている。

 一方、駅伝だけでなく、トラックで活躍する選手が多いのも今の中大の特徴だ。若い選手を積極的に海外のチームに派遣させ、スピード強化に注力するのは、藤原監督の現役時代の経験に基づくものだった。

「自分自身がマラソンで世界に出て行った時に、まったく太刀打ちできなかった。根本的なスピードが違いました。自分が指導者になったら、そこにアプローチしようと思っていました。そうしないと、日本の陸上、マラソンは絶対によくならないですから。

 世界大会に出るだけだったら、今までどおりでもいいですけど、僕は高橋尚子さんや野口みずきさんの(五輪)金メダルを見てきた世代ですから、指導者という立場になったからには、ドラスティックに何かを変えなきゃいけないという考えでずっとやってきました。そういう取り組みを加速させる一方で、箱根も勝たないといけません。いまだに批判されますから。箱根も勝てないのに、トラックばかりやっているんじゃないよ、って」

 常に優勝を求められるのは伝統校の宿命だ。それでも、藤原は自身の信念に基づき、箱根駅伝だけでなく世界で戦える選手を育成するために強化に取り組んできた。そして、今の大学駅伝界で屈指のスピード軍団になった。

 もちろん、箱根駅伝をおろそかにしているわけではない。

 藤原が箱根駅伝を志した中学3年の正月(1996年)が、中大の最後の総合優勝だ。その時以来となる頂点を見据えて、着々とチームの強化にも取り組んできた。

「いろんなことにアンテナを張りつつ、年々ブラッシュアップさせており、去年の夏はボリュームを増やすほうへ大きく舵をとりました。すぐに結果が出るものではないので、逆に言うと、今季はかなり楽しみに駅伝シーズンを迎えられるなと感じています」

 指揮官として迎える11年目のシーズン、藤原はこう手応えを口にする。もちろんライバル勢も強力だが、頂点はもう少しで手が届きそうなところにある。

Profile
ふじわら・まさかず/1981年3月6日生まれ、兵庫県出身。西脇工業高(兵庫)―中央大―Honda。出雲駅伝、全日本大学駅伝を含む3大駅伝には大学4年間すべて出場。箱根駅伝では1年時から3年連続で5区、4年時に2区に出走し、1年、4年時に区間賞を獲得。卒業直前のびわ湖毎日マラソンで当時の初マラソン日本最高記録で、夏の世界陸上パリ大会日本代表に内定した。卒業後はHondaで競技を継続し、世界陸上選手権には2013年モスクワ大会、15年北京大会のマラソンを含め計3回、日本代表に選ばれている。2016年3月に現役引退を表明するとともに、中大陸上部の駅伝監督に就任し、現在に至る。

著者プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

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