検索

箱根駅伝ランナー、東京五輪マラソン代表、そして箱根を目指す指揮官へ 中村匠吾が明治学院大学で切り開く新たな道 (3ページ目)

  • 和田悟志●取材・文・写真 text & photo by Satoshi Wada

【魅力は「指導者として他大学のカラーがない部分」】

 一方、大学側は、中村が指導者としてまっさらな状況からの出発であることを、むしろ前向きに考えていた。

 陸上部の黒田美亜紀部長は言う。

「これまでうまくいかなかった部分をあらためて、大学としても新たなイメージで箱根駅伝を目指したいと思っていました。中村さんはもちろん選手としては大変著名で、駒澤大学出身ということは誰もがご存知だと思います。ですが、指導者として他大学のカラーがないのは、私たちにとって大変魅力でした。こういった言い方は失礼かもしれませんが、指導者としてフレッシュな部分は、私たちにとってすごくありがたかったということです」

 もちろん中村の人柄や競技への真摯な姿勢があってのことだが、指導者として未知数だろうと、中村と共に新体制で再出発すると決めていた。このようにして、縁があって、中村新監督が誕生した。

 指導を受ける選手たちも、新体制のスタートを好意的に受け止めている。

「このような形で新しい体制が始まりますが、選手としてはとてもポジティブに捉えています。もちろん前の体制がダメだったということは決してなく、今までのコーチ陣は予選会に出られないようなチームから関わり、引き上げてくださり、最近では学生連合などで箱根路を走る選手がポツポツと出るようになってきました。

 これからは中村さんをはじめ、新しい体制でしっかり刺激をもらいながら、チーム全体として箱根を本気で取りに行きたいと思っております」

 こう話したのは、今年の箱根駅伝で関東学生連合の5区を走った髙橋歩夢(新4年)だ。これまでの指導陣に感謝の言葉を口にしつつ、チームの新たな船出に気持ちを昂らせている。

「4月から中村監督とともに新しいスタートを切ることを大変うれしく思っています。中村監督とともに箱根駅伝に出場できるように頑張ってまいります」

 新3年生ながら新チームの主将を務める小出暖人は、このように決意を口にした。

 彼らに印象に残っている中村のレースを聞くと、そろって2019年のMGCを挙げた。

「やはり MGC のレースが一番印象に残っています。後半、結構苦しそうな顔をされていたんですけど、残り2kmぐらいで切り替えて、そのまま行ってしまって、勝負強い選手という印象を持っています」

 髙橋の記憶には、中村が"速い"より"強い"選手という印象が刷り込まれていた。当時中学生だった小出は、沿道でMGCを生観戦したという。

「現地で見た記憶は今でも鮮明です。その時はまだ集団だったんですけど、そのあとでスマホで配信を見ている時に中村さんがバーンって抜け出しました。前評判が高かった大迫(傑)さんが優勝するのかなと思って見ていたので、『まさか中村さんが!』と思ったのをはっきり覚えています」

 また、小出が初めて見た箱根駅伝でも中村は激走を見せていた。それは、4年生として迎えた第91回(2015年)大会の1区。中村は何度も先頭集団から遅れながらも粘り、最後は驚異的なラストスパートを見せて区間賞を獲得した。

「当時は中村さんのことを知っていたわけではないんですけど、首をかしげながらスパートしたのを覚えています」

 まだ小学生だった小出にとって、中村のスパートは鮮烈に映った。

 それほど印象深い選手だった中村が、現役を引退してすぐに自分たちを指導することになるとは、ほんの少し前までは全く想像もしなかっただろう。

後編につづく:「中村匠吾の背中を押した3人の恩師」

著者プロフィール

  • 和田悟志

    和田悟志 (わだ・さとし)

    1980年生まれ、福島県出身。大学在学中から箱根駅伝のテレビ中継に選手情報というポジションで携わる。その後、出版社勤務を経てフリーランスに。陸上競技やDoスポーツとしてのランニングを中心に取材・執筆をしている。

3 / 3

キーワード

このページのトップに戻る