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【箱根駅伝2026】日体大、伝統の「集団走」を支えた4年生の自己犠牲精神「まだ力のない下級生が多かったので...」 (3ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Sugizono Masayuki

【エース・山崎が先導役に徹しきれた強さと冷静さ】

 レース序盤は想定より集団のペースが上がらなかったが、それも山崎なりのマネジメント。10kmの通過順位は19位。15kmの通過順位も15位。当初の設定タイムよりも10秒ほど遅れていたのは、集団がバラバラにならないための配慮だった。2年生以下の下級生は、予選会に初出走する選手たち。大役を引き受けた山崎は、玉城監督からの信頼をひしひしと感じていた。後ろにつく後輩に目配りし、集団を慎重にコントロールした。

「まだ力のない下級生が多い集団走だったので、少し遅いペースで脚を溜め、最後に上げていけるように強い気持ちを持って、引っ張っていました。自分がこのチームを本戦に導くんだって」

 ペース配分は経験に裏打ちされたもの。4年連続で予選会に出走し、過去3年は一度も外していない。昨年は8km付近で集団から遅れる選手が出たため、途中で飛び出すことを仲間に伝え、ひとりでタイムを挽回した。結果的に個人全体16位の快走を見せ、予選突破に大きく貢献している。今季はしばらく我慢し、臨機応変に対応した。14km手前の昭和記念公園に入る前に1年生が集団から遅れていることを確認し、想定よりも早く個人で仕掛けた。

「ここで出ないと、チームが危ないと思ったので、自分の判断で行きました。最後はしっかり上げきることができたと思います。自分の順位(全体57位)、タイム(1時間03分16秒)は関係ないです。まずは箱根本戦の出場権をつかむことが一番でしたから。ギリギリの戦いになるとは思っていました」

 ほっとひと息つくと、すぐ2週間後には全日本大学駅伝が待っているものの、ピークを合わせるのは来年1月の箱根駅伝。エースの自覚を持つ山崎は、2区でのリベンジに意欲を燃やす。2026年の正月から逆算し、1年かけて故障しない体づくりとフォームの修正に取り組んできた。夏合宿ではずっと目を背けていた区間19位に沈んだ前回の走りを映像で確認し、客観的に分析。画面の中の自分はエース区間の雰囲気にのまれ、走り出す前から不安な表情を浮かべていた。もう同じ轍を踏むつもりはない。1年前に果たせなかった目標に思いをはせる。

「2区でOBの池田耀平さん(現・花王)が持つ日体大の区間記録(1時間07分14秒)を更新し、8年ぶりのシード権獲得に貢献したいです」

 立川のドラマは心臓に悪い。チームで目指すのは、1月3日の大手町で79年連続出場を決めること。伝統を継承していく強い思いは底力になる。

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