現役引退から3年半、福士加代子は「いまだにマラソンのことはわからないし、走りたいと思うこともない(苦笑)」 (3ページ目)
【来年5月に故郷・青森で「笑福駅伝」を開催】
2022年1月30日、大阪ハーフマラソンが現役最後のレースになった。沿道からは絶え間ない声援が送られ、そのひとつひとつに福士は笑顔で手を振って応えた。
ゴール後の引退セレモニーでは増田明美、有森裕子、高橋尚子、千葉真子、野口みずきら歴代のレジェンドが福士に花束を手渡した。さらに盟友とも言える渋井陽子、小﨑まりも駆けつけた。福士という選手がいかに多くの人たちに愛されたのか、そのことを証明するようなラストレースだった。
「前年はコロナの影響でまだ無観客だったじゃないですか。私は応援してくれる人たちのなかでやめることができてよかったです。走り終わった後は何もなかったですね。もうお腹いっぱいでした」
引退後、またマラソンを走りたいという気持ちはまったく起こらなかった。今もマラソンを走りたいとは思わず、マラソンのことはわからないという。市民マラソンのゲストに呼ばれることもあるが、「ハーフまでは仕事できます」と主催者には伝えている。
「今は、来年の5月に故郷の青森で、私自身が企画した『笑って走れば福来たる駅伝(笑福駅伝)』を開催するので、それを全国に展開していけたらと思っています。指導は勉強中ですね。ワコールがちょっと低迷しているので、もう一度、強く、楽しい雰囲気ができればいいなと思うので、そこで何ができるか、模索中です」
マラソン中継の解説にも興味があり、前回の大阪国際女子マラソンでは、メイン解説の高橋尚子に渋井と福士がつっこむスタイルが新鮮で、これまでのマラソン解説とは異なる面白さがあった。
「渋井さんが高橋さんにぶっこんでいくので、私もだいぶ慣れてきたんですが、面白かったですかね(笑)。でも、このスタイル、どこまで使えるんでしょう。まだ、大阪国際女子しかない座組なので。今後どうなるか、お楽しみですね、あはは(笑)」
マラソンのことはいまだによくわかっていないが、ゲストランナーや解説などでランニングを楽しみ、みんなを楽しませている。その姿は、まさに「1等賞だべ」であろう。
(おわり。文中敬称略)
福士加代子(ふくし・かよこ)/1982年生まれ、青森県出身。五所川原工業高校から、2000年にワコールへ入社。2002年に3000mと5000mで日本記録を更新。10000mでも日本選手権を6連覇し、「トラックの女王」と呼ばれた。オリンピックには2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドンとトラック種目で3大会連続出場。マラソンは2008年大阪国際女子マラソンで初挑戦すると、2013年世界陸上モスクワ大会で銅メダルを獲得。2016年リオデジャネイロ五輪にはマラソンで出場し、日本の女子陸上選手で史上初めてとなる五輪4大会連続出場を果たした。2022年に現役引退。現在はワコール女子陸上競技部のアドバイザーを務めるほか、駅伝開催、メディア出演、市民マラソンのゲストなど普及活動にも携わる。マラソン自己ベスト記録は2時間22分17秒(2016年大阪国際女子)。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。
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