現役引退から3年半、福士加代子は「いまだにマラソンのことはわからないし、走りたいと思うこともない(苦笑)」 (2ページ目)
【テレビ中継のカメラに向かって「ごめん、やめるわ」】
2020年1月26日、東京五輪マラソン代表のラストチケットをかけて、福士は大阪国際女子マラソンに出場した。代表選出への最低条件(2時間22分22秒)突破を目指し、先頭集団は1km3分20秒前後のハイペースでレースを進めた。福士もそれについていたが、突然、併走していたテレビ中継のバイクカメラに向かって、「ごめん、やめるわ」と叫び、25km地点で途中棄権した。
「監督が近くにいなくてやめる場合、どこに言えばいいんだろうって思ったんですよ。たまたまテレビカメラがあったので、これ見ているかなと思って言ったんです。棄権はもう事前に監督に話をしていたんです。レースで、ちょっと遅れて、私がくたばったらもうやめますと。挽回するのが無理なので。スタートから松田(瑞生)さん(ダイハツ)とかが速すぎてつけなかったので、さっさとやめて次に備えました」
東京五輪の最後のチャンスとなった2020年3月8日、名古屋ウィメンズマラソンは、チームメイトの一山、安藤とともに冷たい雨が降るなか、最後の1枠をかけてスタートした。大阪国際女子マラソンでは松田が2時間21分47秒で優勝しており、このレースで代表の切符を勝ち取るには、日本人トップ、なおかつ松田の記録を上回らなければならず、福士は自己ベストを30秒も上回る必要があった。
大阪から名古屋まで短期間での調整の難しさはあったが、福士は「最後のチャンス」にかけた。しかし、15km過ぎに先頭集団から離れ、30kmで棄権。一山と安藤は日本人トップを争い、最終的に一山が日本歴代4位(当時)の2時間20分29秒で優勝し、東京五輪の切符を勝ち取った。
「監督から一山さんの練習メニューを聞いていて、これは完璧だなって思っていました。万が一、(彼女が)お腹が痛くなったりしたら、私にもチャンスあるかなって(笑)。ただ、当日は雨で寒すぎた。これが最後(のマラソン)と思うところがあったので、最後までいきたかったですけど、棄権して、やっちまったなぁと(苦笑)。
でも、『優勝から途中棄権まで全部やってきたなぁ。すごいなぁ』と、(永山忠幸)監督に言われたので、そういう人生もあるなと思えたので、悔いはないです」
新型コロナウイルスの影響で東京五輪は2021年に延期となり、福士は10000mの選考大会となった同年5月の日本選手権に出場した。過去、アテネ、北京、ロンドンの3大会ではトラックで出場しており、最後にチャレンジをしたが、19位に終わった。
「東京五輪への出場がなくなって、もういい年齢(39歳)だし、五輪に行きたいという気持ちもあんまりなくなってしまった。戦うことに対して、前よりも練習の質を上げられないし、メンタル的にもう踏ん張れなくなってしまったんです。これはもう(チームの)戦力にならないなぁ。それはいかんよなって思って、引退することに決めました」
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