4度目の五輪で初めてマラソンに出場した福士加代子「メダルを獲りたいと有言実行できる人はすごいですよ」 (3ページ目)
【「『みんな、落ちてこい』と呪いをかけていた(笑)」】
前との距離は開いたが、福士は懸命に腕を振り、最後まで目標をあきらめなかった。
「どれだけ離されても金メダルを目指すと思いながら走っていました。周囲の選手は気にしてないですね。5000m、10000mなら気にする余裕もありますけど、マラソンは自分が一番下だと思っているので、速い人たちにどれだけついていけるかしか考えていないです。そうして最後、勝負できるところまで一緒にいれたら面白いじゃんって。
そこまでいくと、相手のしんどさとか息づかいもわかるので、レース後、お互いに称え合ったり、仲間になった感じがある。それがマラソンの面白さでもあるんです。でも、この時のレース中は『みんな、落ちてこい』と呪いをかけていました(笑)」
福士はお祭り騒ぎのゴール会場に入り、最後の最後でひとりを抜き、日本選手トップの14位でゴールした。
「『おぉ、これがリオのカーニバルかぁ。お疲れっ』て思いました。最後までやりきった感がありましたし、充実してたなぁと。ただ、結果がついてこなかったので、物足りなさもありました。14位ですからね(苦笑)。まさか、あんなに落ちこぼれるとは思っていなかったので自分でもびっくりでした」
それまでオリンピックに3度出場し、そこでメダルを獲ることの難しさは理解していたはずだが、マラソンで出場したリオ五輪であらためて実感した。
「メダルを獲りたいと有言実行できる人はすごいですよ。その思いが濃厚な人がメダルを獲るんだなって思いました。私は、メダルを獲るためには、もうちょっと走りを含めて細かく分析して、何をすべきか自分で理解すべきだったと思います。監督は『お前はそんなことができないタイプだから、俺が全部やってやる』という感じだったと思うんですけど、それならもうちょっと緻密にいろんなことを教えてくれてもよかったのにとも思いますが、私が監督とその部分でもっとコミュニケーションをとる必要があったかもしれないですね(苦笑)」
(つづく。文中敬称略)
>>>後編「現役引退から3年半、福士加代子は『いまだにマラソンのことはわからないし、走りたいと思うこともない(苦笑)』」
福士加代子(ふくし・かよこ)/1982年生まれ、青森県出身。五所川原工業高校から、2000年にワコールへ入社。2002年に3000mと5000mで日本記録を更新。10000mでも日本選手権を6連覇し、「トラックの女王」と呼ばれた。オリンピックには2004年アテネ、2008年北京、2012年ロンドンとトラック種目で3大会連続出場。マラソンは2008年大阪国際女子マラソンで初挑戦すると、2013年世界陸上モスクワ大会で銅メダルを獲得。2016年リオデジャネイロ五輪にはマラソンで出場し、日本の女子陸上選手で史上初めてとなる五輪4大会連続出場を果たした。2022年に現役引退。現在はワコール女子陸上競技部のアドバイザーを務めるほか、駅伝開催、メディア出演、市民マラソンのゲストなど普及活動にも携わる。マラソン自己ベスト記録は2時間22分17秒(2016年大阪国際女子)。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。
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