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東京2025世界陸上を前に三浦龍司が発揮した「今年の練習の成果」「自分でも出力が上がっているのを感じる」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【一発だけでなく、タイムの再現ができる脚づくりが必要】

 三浦が更新した日本記録(8分0343)の1km平均ペースは約2分41秒、勝負をしたラスト1kmだけ見ると、2分3637秒で駆け抜けている。3000m障害ではなく3000m(※オリンピック・世界選手権の非実施種目)の日本記録は大迫傑(Nike)の7分4009で1km平均ペースは2分33秒となり、三浦がモナコで見せたラスト1kmのラップとの違いは3、4秒だ。障害を飛び越えながら、それだけのスピードで走っているのである。

 長門監督は「今年の練習の成果」と言う。

「基本的に、学生の時からやっていることは変わりません。ただ、いつもは塩尻(和也/富士通、10000mの現日本記録保持者)や三浦がやってよかったことを学生に落とし込むことがあるのですが、今年はウチの大学の1500m組の調子がよかったので、その練習を三浦に落とし込んでみました。そうしたら出力が上がるようになって、スピードに余裕が出てきました。

(1kmごとの)ラップも東京五輪の予選はよかったんですけど、それ以外、なかなか2分40秒を切ることができなかったんです。でも、モナコは最後、(2分)40秒を切っていたので今までで一番速かったですね」

 三浦本人も出力が上がっているのを実感している。

「自分でも出力が上がっているのは感じます。1周のスピードがある程度速い中でも走りきれるスピード持久力がついたと思いますし、(1kmあたり)2分40秒というレースペースに対してひとつ余裕度が上がったと思っているので、そこは大きいですね」

 モナコで見せた切り替えた時のトップスピードには鋭さがあった。三浦は「これまでの練習が身になってきている」と語るが、その一方で、まだ世界トップとの差も感じているようだ。

「世陸に向けてよい弾みになりましたし、よいシミュレーションになったと思います。ただ、優勝したエルバカリとは(自己ベストで)6秒(以上)の開きがあるので、そこは詰めていかないといけない。世陸に向けては一発だけタイムを出すのではなく、タイムの再現ができるような脚づくりが必要かなと思います」

 長門監督も、三浦は冷静に世界との距離を見ているという。

「モナコでエルバカリは世界記録を目指してスタートし、途中で(世界記録が)出ないとわかったらペースを落としていた。それで三浦が届いたところもある。世陸は(タイムよりも)勝負(優先)なのでダイヤモンドリーグとはレース展開が異なりますし、モナコのようなレース展開にはならないと思います。駆け引きして、競り合うなかでも戦えるようにしっかり準備していきたいですね」

 今夏は北海道などで合宿を行ない、ダイヤモンドリーグのファイナルに向けて調整していくことになる。練習ではすでに長門監督が求める出力以上のものが出ており、4月のダイヤモンドリーグ・厦門大会(中国)で8分1011を出したあとに少し足を痛めたこともあり、世陸までは慎重にやっていくという。

 三浦自身は、世陸に勝つことを目指しつつ、今後は7分台も目指している。

「7分台は、僕がゆくゆくは目指しているところです。徐々に現実味を帯びてきているという感覚なので、これからしっかりと射程距離内に詰めていきたいと思います」

 ホクレン網走大会での5000mは、キツくなっても1330秒を切った。テーマを持って走り、それをクリアすることで自分のなかに強さが上積みされている。9月の東京2025世界陸上は勝負優先のレースだが、メダルとタイムの二兎を追う夢を見られるのは、三浦が走るからである。

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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