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【箱根駅伝2026】大志田秀次・明大駅伝新監督が分析する低迷の要因と今シーズンへの思い

  • 牧野 豊●取材・文
  • 村上庄吾●写真

大志田監督(右)を迎え、最終学年の勝負に挑む3選手(左から主将の室田、吉川、森下) photo by Murakami Shogo大志田監督(右)を迎え、最終学年の勝負に挑む3選手(左から主将の室田、吉川、森下) photo by Murakami Shogo

近年、学生駅伝界で低迷が続く明治大学の再興を託された大志田秀次・新駅伝監督。実績組をはじめ、各学年に好選手がそろっている。チームが強くなるためのカギは「選手の自主性」と語る名将が就任早々に行なったのは、これまでの取り組みを振り返り、結果につながらなかった要因を見出し、選手との対話を進めることだった。

新たな挑戦は、すでに始まっている。

後編:大志田秀次・明大駅伝監督インタビュー

前編:大志田秀次氏が語る明大駅伝監督を引き受けた背景と『失敗を経験に』の哲学

【『自主性』とは、選手が具体的に考えて行動すること】

 昨年度の明治大は全日本大学駅伝、箱根駅伝ともに予選会で落選。三大駅伝を一つも走ることなくシーズンを終えた。とはいえ、潜在的な戦力が足りなかったわけではない。新年度のチームでも4年生には世羅高校(広島)時代に全国高校駅伝優勝経験のある森下翔太と吉川(きっかわ)響、3年生にはチーム上位の5000m13分台の自己ベストを持つ綾一輝(八千代松陰・千葉)と大湊柊翔(学法石川・福島)をはじめ、各学年に力のある選手が顔をそろえる。

 大志田監督は指揮官就任が発表された3月上旬以降、まずは昨シーズンの取り組み過程を見直し、結果につながらなかった要因を突き詰めた。そのうえで、選手個々との意見交換を図ることからスタートしている。

――明大の選手の印象はいかがですか。

大志田駅伝監督(以下、同)「(4月上旬の)記者会見で言ったように、素質が眠っているチームというのが第一印象でした。ではなぜ結果につながってこなかったか。まずはこれまでの取り組みを見聞きして調べてみると、チームの上位10人が狙った大会にそろって出られていなかった点が見えてきました。つまり、それ以前の準備の部分に問題があったということです。

 これは明大に限ったことではありませんが、たとえば高校時代まではチームでやっていた練習前後の準備やケアを大学に来たら疎かにしてしまい、それがケガの要因になっているのにそのことに気づいていないといったことが往々にしてあるものです。

 明大のカラーとして『自主性』という言葉を耳にしますが、自主性とは選手が自分の好きなように、自由にやるという意味ではありません。日常生活や学業をしっかりやることはもちろん、競走部の部員である以上、速く走るためにはどうするのか、どういうトレーニングをするのか、故障を未然に防ぐにはどうしたらいいのか、故障した場合にはどのように治療していくのか、なかなか回復できない場合は違う治療法も考えるべきなのか−−。自主性とは、それらのことを選手自身が具体的に考えて、行動に移していくことです。

 違和感という言葉にしても同じです。『違和感があります』というのは、具体的にどういう状態であるのか。それらを言葉にして伝えることは非常に重要なことなのです。

 選手個々がそうしたことにきっちりアプローチしていけば、もともと力のある選手が多いわけですから、明大は強くなれると考えています」

――まだそれほど時間が経っていませんが、選手からの反応はいかがですか。

「最初は私が出したことに対して、一部にはこれまでと同じようにやりたいという意見もありましたが、私は、そこは譲れなかった。いい結果を求めるためにいろいろな側面でチーム組織が変わっていかなければならないときに、走る選手たちが変わらなければ何も変わらないよ、ということを伝えました」

――中大では選手たちの意見が集約されてのコーチ就任、東国大ではゼロからチームを作り上げていきましたが、明大は歴史もあり、すでに実績のある選手もいるところからのスタートです。最初の段階ではそのあたりの難しさはあるのかもしれません。

「選手たちや学生スタッフが記した過去の活動内容を振り返ってみると、例えば、『記録会や大会への出場が少なくて、(狙った大会で)相手の強さに参ってしまった』という反省があり、それを受けて今度は試合数を増やすわけですけど、それに対して『結果が出なかった』と、そこで終わってしまっていたんです。

『失敗を経験に』というのが私の指導方針ですが、選手自身が自ら立てた目標に対しての分析を継続していかないと、強くなることは難しいです。

 ただ、選手というのはこだわりがある一方で、強くなりたいわけですから、納得すればきちんと取り組む素直さは持っています。一緒に過ごす時間が増えていけば、関係が築けると思います」

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著者プロフィール

  • 牧野 豊

    牧野 豊 (まきの・ゆたか)

    1970年、東京・神田生まれ。上智大卒業後、ベースボール・マガジン社に入社。複数の専門誌に携わった後、「Jr.バスケットボール・マガジン」「スイミング・マガジン」「陸上競技マガジン」等5誌の編集長を歴任。NFLスーパーボウル、NBAファイナル、アジア大会、各競技の世界選手権のほか、2012年ロンドン、21年東京と夏季五輪2大会を現地取材。229月に退社し、現在はフリーランスのスポーツ専門編集者&ライターとして活動中。

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