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日本の駅伝文化を支える外国人ランナーたちのリアル 日本語も仕事も覚えたのに引退すると滞在ビザを取得できない... (4ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【走る区間を限定することの是非】

 トラブルは大小を問わず、いろいろ起こるが、外国人選手の存在そのものは、とりわけ高校や大学において非常に大きな意味がある。「世界と戦う」日本人選手の育成のためには欠かせない存在だ。

 だが、最近は駅伝において彼らの起用に制限をかけるようになった。ニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)で外国人選手の起用が許されているのは、全7区間中もっとも距離の短い4区のみ。都大路も2024年大会から、留学生の起用は最短距離の3kmを走る区間限定となった。

「駅伝の勝負の先に、世界で戦う人材を育てるという目標があるならば、わざわざ線引きする必要はないと思います。外国人選手と堂々と戦って力の差を知ることで、さらに頑張ろうと思う選手の方が成長していくんですよ。こんな中途半端な起用ルールが続くのなら、いっそ外国人選手の起用を禁止にしてしまえばいいのではないかと思います」

 会沢監督が疑問に感じているのは、そうした区間限定策だけではない。例えば、東日本実業団駅伝では外国人選手を2名エントリーできるので(実際に走れるのは1名)、故障したり、調子が悪かったりする場合はリザーブの選手を起用できる。

 だが、実業団チームの最大のターゲットとなるニューイヤー駅伝では、12名の選手をエントリーするものの、外国人は1名のみだ。その選手が直前に故障しても、代わりの外国人を出場させることができない。そのため、駅伝を走れずにクビになるのが怖いこともあり、故障を抱えながらも無理を押して走る選手もいるという。そんな状況にもかかわらず、なぜニューイヤー駅伝は外国人2名エントリー制にしないのだろうか。

 ケニアやエチオピアの外国人選手が特定の区間で一斉に駆けていく光景は、ある意味、異様だ。そこに駅伝的な面白さがあるとは言えないし、彼らも毎回、同じ区間ではやる気や楽しさを見出すことが難しく、駅伝への興味や情熱が冷めていっても不思議ではない。

 厳しいルールを課し、活躍の場を制限していく流れが今後も強まるようなら、彼らにとっての日本に来る価値はどんどん失われていくかもしれない。

>>>「増える移籍、多様化する契約形態...日本のマラソン&駅伝人気を支える実業団の現在地 『プロ化=すごい』でいいのか?」につづく

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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