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東京マラソン 市山翼、赤﨑暁、池田耀平、井上大仁...世界陸上代表の座を目指した日本人トップ争い、それぞれの戦略と誤算 (4ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

4年ぶりに自己ベストを更新した井上大仁(三菱重工) photo by Kishimoto Tsutomu4年ぶりに自己ベストを更新した井上大仁(三菱重工) photo by Kishimoto Tsutomu

【今回ダメならもうどうしようもないなって......】

 期待された選手が苦しんだなか、復活を遂げた選手もいた。自己ベストを33秒更新し、2時間0614秒で日本人2位(全体12位)に入った井上だ。

「今回は、久しぶりのレースだったのですが、練習はできていました。池田君たちと勝負したかったなと思っていましたが、まずは着実に走ることを目的にしました。レースは、もう本当に苦しいというか、粘りだけでした。でも、久しぶりに6分台と自己ベストを出せたので、ここからが新しいスタートというか、次につながるレースになったんじゃないかなと思います」

 井上は少しホッとしたような表情を見せた。前回の自己ベストは2021年2月のびわ湖毎日マラソンだった。しかし、以降はなかなか更新できず、MGCも7位に終わり、パリ五輪出場の夢が潰えた。それから復活を目指し、練習を丁寧に積み重ねてきた。

「今回、練習ができていたので、ダメならもうどうしようもないなって思っていました」

 何かしらの覚悟を決めてのレースだったのだろう。ひとつでも上を狙い、タイムを出す。前の選手が落ちてくることはあまり望めなかったが、それでもあきらめずに我慢して走ったことで、それが現実になった。

「思っていたところからは遠いタイムだったので、満足できる結果ではないです。でも、周囲のレベルが上がってきているなか、自分も遠回りでもゆっくり進んできている。今後は日本のレベルが上がったなかで勝負するのはもちろんですけど、世界との勝負ももう一度していきたいなと思っています」

 32歳のベテランの復活は、大阪マラソンで日本人トップ(2時間5分39秒)の近藤亮太(25歳)や、2023年ブダペスト世界陸上の代表の山下一貴(27歳)ら同じ三菱重工の選手たちへの大きな刺激になるだろう。もしかすると井上自身のキャリアをさらに高めていくターニングポイントになるかもしれない。

 東京2025世界陸上の男子の代表選考レースはこれですべて終了。この日、日本人トップの市山も最大3枠の代表に選ばれるどうかは何とも言えないところだが、それぞれの選手が、それぞれの思いを胸にベストを尽くし、42.195kmを走り抜いた。マラソン代表は今月の日本陸連の理事会で決定する。

著者プロフィール

  • 佐藤俊

    佐藤俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)、「箱根5区」(徳間書店)など著書多数。近著に「箱根2区」(徳間書店)。

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