北口榛花は高3で「世界一」へ飛躍 恩師、ライバルが見た衝撃の潜在能力 (3ページ目)

  • 寺田辰朗●取材・文 text by Terada Tatsuo

【北口との巡り合わせは「宝くじの億円単位当選」】

 北口の競技力は、普通の高校生で済まされないレベルに達していた。松橋氏は高校時代の北口を「特に試合では、あり得ないようなことを平然とやってしまう」と感じていた。

「本当にモノが違う。ここでこうしたい、こういう記録を狙いたい、ということを彼女は100%やっていました。高校2年の4月に53mをいきなり投げましたが、53mは日本選手権の参加標準記録でした。私はまったく考えていませんでしたが、北口は日本選手権に出ようと狙っていたんです。高校記録を出した日本ジュニアも、高校最後の試合になるかもしれなかった。その最終投てきで高校記録を狙って投げています。

 どうして、それができるのか。はっきり言ってわかりません。そこまでやってしまう人間を近くで見たことはありませんでしたから。そんな選手と出会えたのは、巡り合わせとしか言いようがない。宝くじで何億円当たるのと同じような確率だと思います」

 北口自身も高校時代のパフォーマンスを、完全に予測できていたわけではないだろう。北口の身体能力、家庭環境、旭川東高の環境、ライバルの存在。いくつもの条件が揃って高校女子やり投選手最高の実績を残すことができた。

 そのプロセスを踏んでいる間に、北口のなかには上を目指す強い意思が生じ始めていた。

 松橋氏は「(高3年時の)世界ユースに勝った頃から世界を視野に入れ始めていたのでは」と感じている。

「今の北口の姿も、高校卒業の頃には、私はイメージできていました」

 松橋氏は大学入学以降も北口が、世界に向けて成長し続けることを信じて疑わなかった。

つづく(第3回は7月10日配信予定)

【Profile】北口榛花(きたぐち・はるか)/1998年3月6日生まれ、北海道出身。旭川東高校→日本大学→日本航空。小中学時代はバドミントンと競泳に打ち込み、高校入学後にやり投を始めると、競技歴3カ月でインターハイに出場。その後、成長を続け、翌2014年にインターハイ優勝、2015年には世界ユース選手権で日本女子の投擲種目で初の金メダルを獲得した。2019年には初めて日本記録を更新し、東京五輪では6位入賞。2022年オレゴン世界陸上選手権では3位となり、女子のフィールド種目では五輪・世界陸上史上初のメダリストに。そして翌23年ブダペスト世界陸上では最終6投目で逆転優勝を決め、同史上初の金メダリストになった。

著者プロフィール

  • 寺田辰朗

    寺田辰朗 (てらだ・たつお)

    陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に124カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の"深い"情報を紹介することをライフワークとする。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。「寺田的陸上競技WEB」は20年以上の歴史を誇る。

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