北口榛花は高3で「世界一」へ飛躍 恩師、ライバルが見た衝撃の潜在能力

  • 寺田辰朗●取材・文 text by Terada Tatsuo

北口榛花は高3時の2015年に世界ユース制覇の快挙を成し遂げた photo by Getty Images北口榛花は高3時の2015年に世界ユース制覇の快挙を成し遂げた photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る

 女子やり投で日本の投てき種目、フィールド種目で歴史的偉業を次々と成し遂げ続けている北口榛花(JAL)。昨年の世界陸上で初の金メダリスト、世界の強豪が集うダイヤモンドリーグの年間女王となり、記録面でもシーズン世界ランキング1位と文字どおり世界のトップスロワーに。そして迎えるパリ五輪では自他ともに大きな期待がかかる。5回に渡り、その北口の成長を直近で見てきた人たちの証言をもとに、これまでの歩みを振り返っていく。

 第2回は、北口がその才能を一気に開花し始めた高校2・3年時の様子を、恩師、同学年のライバルの視点から振り返る。

「北口榛花」目撃者たちの証言 第2回

【"クロスステップだけの投てき"で全国制覇】

 やり投にシフトしてひと冬を越えた北口は、高校2年時(2014年)の4月に53m08と自身初の50m台をマークした。自己記録をいきなり4m近く更新したのだ。そして7月末のインターハイは52m16で優勝し、松橋昌巳氏(旭川東高校時代の恩師)の予想どおり、高校日本一の座に就いた。

 インターハイではふたつの点で北口らしさが表われていた。ひとつは助走技術が未熟ながら、自身の状態をしっかり判断できたこと、もうひとつは6回の試技の終盤で力を発揮したことだ。

 松橋氏が「インターハイも前半の試技は、通常の助走をしていたのですが」と当時を述懐する。

「全国大会なのにクロス(※)だけで投げていたら、初心者みたいでちょっと格好悪いんですよ。しかしその日は、クロスだけのほうが飛びそうな投げ方でした」

※助走の最後の局面。身体を投てき方向に対して半身の態勢で、右投げなら右脚が身体の前面で左脚の前を交差させるように進行方向にステップして投げの態勢に入る。

 1回目の試技の50m45で北口がリードしていたが、試技順が先の1学年先輩選手に5回目で、52m10を投げられて逆転された。

「そしたら北口が『先生、クロスだけで投げていいですか』と聞いてきたんです。私が『クロスでいこう』と背中を押したら、5回目に52m16で6cm逆転しました」

 松橋氏はやり投の国体入賞選手を育てたこともあったが、やり投の助走技術は跳躍の要素が大きい、という持論だった。

「助走して最後は思いきりブロックする(止まって投げの局面に移る)のがやり投の基本です。ブロックは跳躍種目の踏切に当たる局面です。(前日本記録保持者の)海老原有希さんは走幅跳で5m60以上跳んでいましたが、北口は4m50いけばよいほうでした。いろんなメニューをやりましたが、跳躍的な感覚の助走はできなかった。(北口が幼少期から高校1年まで取り組んでいた)競泳競技は陸上競技ほど脚への負荷が伴わないこともあり、北口の脚は(体全体のバランスから見て)著しく細いんです。もう少し走れたり、跳べたりしたら助走も自然にスピードが出て、投げが変わってきたかもしれない」

 いずれにせよ、そんな助走でも高校日本一になった。

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プロフィール

  • 寺田辰朗

    寺田辰朗 (てらだ・たつお)

    陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に124カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の"深い"情報を紹介することをライフワークとする。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。「寺田的陸上競技WEB」は20年以上の歴史を誇る。

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