北口榛花は高3で「世界一」へ飛躍 恩師、ライバルが見た衝撃の潜在能力 (2ページ目)

  • 寺田辰朗●取材・文 text by Terada Tatsuo

【同学年のライバルが見た北口】

同学年ライバルとしてしのぎを削った山下実花子(右/写真は2015年インターハイ) photo by YUTAKA/AFLO同学年ライバルとしてしのぎを削った山下実花子(右/写真は2015年インターハイ) photo by YUTAKA/AFLOこの記事に関連する写真を見る 優勝した北口と同学年で4位に入った山下実花子(当時京都・共栄学園高2年)にとって、最初の対決となったインターハイで受けた衝撃は大きかった。

「デカい子だな、というのが第一印象でした。表彰式で同学年と知って、"来年もこの子と戦うのか、大変な年に生まれたな"と認識し始めたことを覚えています」

 しかし、そのインターハイが山下自身にとっても成長する契機となった。コーチから北口と同じやりを投げるようにアドバイスされ、硬度の高いやりを投げてみたところ自己新記録を更新することができた。

 硬いやりを使いこなすには、ヒジや肩にかかる負荷に耐えるだけの筋力や、正確な動きが求められる。北口の出現で山下も、ワンランク上のレベルにステップアップするきっかけをつかんだ。

「高2の冬には『高校記録を投げる』とコーチに言い始めました。練習もレベルアップしたし、いろいろな指導者の方にアドバイスをもらいにいくようになりました」(山下)

 高校2年時以降の北口が、高校生の大会でも緊張感を持って試合ができたのは、山下の存在による部分が大きかった。

 高校3年時のふたりは7月に異なる場所で快挙を成し遂げた。まずは7月11日に山下は、京都府選手権で58m59の大アーチを放った。それまでの高校記録(57m31)を1m以上更新した。

 その5日後には北口が南米コロンビア・カリで行なわれていた世界ユース選手権(現U18世界選手権)で、ユース規格(重さ500グラム。通常は600グラム)のやりではあるが、60m35で金メダルを獲得した。名前に"花"が付くふたりの活躍に、女子やり投界が沸き返った1週間となった。

 ふたりは8月2日のインターハイで直接対決。北口が2連覇を果たしたが、北口の56m63に対し、山下も55m40と僅差の好勝負を展開した。

 高校3年シーズンは10月6日の国体、同18日の日本ジュニア(現U20日本選手権)も北口が勝ち、全国大会3冠を達成。北口は国体で57m02と高校歴代3位に進出すると、日本ジュニアでは58m90と山下の持っていた高校記録を31cm更新した。国体は5投目、日本ジュニアは6投目にその試合の最高記録を出し、前年のインターハイも5投目、世界ユースも5投目と、6回の試技の終盤に記録を伸ばしていた。

 山下は高校時代、直接対決では北口に一度も勝つことができなかった。「北口さんはどんな調子でも6本のなかで必ず1本(良い記録を)投げてきます。自分になかった強さでした」と、現在の山下は冷静に振り返ることができる。

「今から考えれば高3シーズンは、自分にとってのベストパフォーマンスは出せていたと思います。58m台は1試合だけで、あとは55m台が多かった。そこが、自分が出せる実力だったと思います」

 だが当時は「悔しくて、悔しくて『なんで勝てへんのや』と落ち込んだり、悩んだりしていた」と言う。「インターハイでは『おめでとう』と言いましたが、日本ジュニアでは何も言えなかった気がします」

 ウォーミングアップ場や招集場所で北口が近くにいても、山下は目を合わせようとしなかった。ライバル心を前面に出すことで、当時の山下は自身を奮い立たせていた。

 しかし高3のシーズン終盤になると、ふたりは打ち解けて話をする関係になった。冬期に日本陸連派遣でやり投強豪国のフィンランドでトレーニングを行なったり、国内でもナショナルトレーニングセンターでともに合宿を重ねたからだ。

「これから一緒にやっていく仲間、として認識し始めました。翌年のリオ五輪や5年後の東京五輪に一緒に出たい、やっていきたいと。自分はコミュニケーションが得意ではありませんでしたが、合宿で一緒に生活し、練習中にいろいろ教えてもらっているうちに、そういう気持ちが芽生えてきました。

 大きな声で笑うし、甘い物が大好きだし、"普通の人やな"と思えました」

 練習では、走るメニューと跳躍系のメニューは山下、投げのメニューでは北口が強かったという。

「肩の可動域が違うと思いました。私は野球出身で、パワーはありましたが野球の投げ方のクセがあった。それに対して北口さんは水泳やバドミントンの体の使い方なのか、体を大きく使います。見ていてすごくダイナミックでした」(山下)

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