箱根駅伝5区の価値を決定づけた3人の「山の神」たち 粘りの走りで総合優勝につなげた会津出身ランナーの記憶も忘れ難い (2ページ目)

  • 和田悟志⚫︎取材・文 text by Wada Satoshi

【悔し涙も駒大・安西がつないだ逆転劇】

 5区はその過酷さゆえ、走力だけでなく、メンタルの強さも求められる。"山の神"の圧倒的な走力の前に、気持ちを折られる選手も多いのではないだろうか。確かに何分もあった貯金をあっという間にひっくり返されたのでは、たまったものではない。

 ただ、抜かれた後に"粘り"を見せられれば、優勝のチャンスまで摘み取られることはなかった。それを証明したふたりのランナーを取り上げたい。

 2008年は、その夏の北京五輪で日の丸を付ける竹澤健介を擁する早稲田大が12年ぶりの往路優勝を飾った。この時に5区を担った駒野亮太は、箱根山中で5人を抜き、今井が持っていた区間記録に7秒まで迫る快走で往路優勝のフィニッシュテープを切った。"山の神"と呼ばれることはなかったものの、その称号に匹敵する活躍ぶりだった。

 この年、駒野と共に快調にペースを刻んだのが、駒澤大の安西秀幸だった。駒野より12秒早く5位でスタートした安西は、駒野になかなか追いつかれることなく、次々と順位を上げていった。8km過ぎについにとらえられたが、10.6kmでは駒野と共に先頭を奪った。だが、13kmを前に引き離され、芦ノ湖には2位でフィニッシュしている。

"山の神"並の走りをした駒野に付いていけなかったのは仕方なかったが、安西もまた当時の区間歴代4位の好タイム。23.4kmの距離で1時間20分を切った4人目のランナーだった。

 早大との1分14秒差は復路に強力な戦力を残した駒大には十分だった。

 駒野に振り切られた後もあきらめずに粘った安西の走りが、復路での逆転優勝につながった。駒大にとっては3年ぶりの総合優勝。芦ノ湖で悔し涙を流した安西だったが、彼の走りには主将としての意地を見た。

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