日本選手権10000m覇者・塩尻和也が語る「箱根駅伝」を超越した「世界の26分台」を目指す戦い (3ページ目)

  • 寺田辰朗●取材・文 text by Terada Tatsuo
  • 中村博之●取材・文 photo by Nakamura Hiroyuki

【箱根駅伝スター選手たちの切磋琢磨】

 近年、箱根駅伝を戦った選手たちが世界で戦うことへの意欲を強くしていることも、10000mのレベルアップにつながっている。塩尻は4年時の2019年箱根駅伝2区(23.1km)で、1時間06分45秒と区間日本人歴代最高記録の快走を見せた。翌20年には相澤が1時間05分57秒と塩尻の区間記録を更新した。今回の日本選手権で4位の田澤廉(トヨタ自動車)は2022年に駒澤大時代、1時間06分13秒で区間賞を獲得し、23年も万全の準備はできなかったが1時間06分34秒(区間3位)で走った。

また、相澤と同学年の太田は4年時は直前の故障などもあり、1時間07分05秒の区間6位と上記3人ほどの戦績は残せなかったが、箱根駅伝2区に3回出走経験がある。卒業後のニューイヤー駅伝3区(13.6km)では、2年目の2022年に区間2位、2023年は大迫傑(Nike)を抑えて区間賞を取り、トラックシーズンも勝負強さを見せつけてきた。

 塩尻は、"箱根駅伝2区経験者の注目選手同士が争った"というファン目線に理解を示しつつ、次のような話し方をした。

「箱根駅伝で同じ区間を走った縁は確かにあるんですけど、箱根の同じ区間で結果を残した者同士だから勝ちたい、という考え方にはなりません。箱根以外でも同じレースを走ることが何度もありますので、(どちらかといえば)お互いを知っている分、より負けたくないっていう気持ちになるのだと思います」

 今回の日本選手権は、箱根駅伝ファンの注目を集めて盛り上がった。それは良いことであるが、そこだけを見ていたらもったいない。箱根駅伝で活躍した日本トップレベルの選手が多数出場するレースは、年間何度も行なわれている。

 パリ五輪の10000m代表は2024年5月の日本選手権優勝者が、その日本選手権を含め標準記録を突破していれば代表に内定する。日本選手権以降は標準記録突破、もしくは7月30日以降に確定する世界ランキングで出場資格を得た選手が3人まで代表入りする。

 塩尻は1月にニューイヤー駅伝(全日本実業団駅伝)と全国都道府県対抗男子駅伝の駅伝2レースに出場する。特にニューイヤー駅伝は2区か3区への出場が予想され、3区(今回から15.4kmに変更)で追い風が吹けばトラック以上のスピードになることもある。チームの勝利のために走るが、結果的にスピード強化のトレーニングにもなる。

 トラックでは5月の日本選手権に加え、海外レースも含めて世界ランキングに反映されるポイントが高い1レースに出場していく予定だ。今回の日本選手権後の世界ランキングで17位に入り、無理な日程で記録を狙いにいく必要はなくなってきた。それでも、標準記録を突破することが五輪本番の戦いにプラスに働くのは間違いない。

 普段はおっとりした口調の塩尻が、「この記録(27分09秒80)をステップに、27分切りを目標にしていく」と力強く話した。

プロフィール

  • 寺田辰朗

    寺田辰朗 (てらだ・たつお)

    陸上競技専門のフリーライター。陸上競技マガジン編集部に124カ月勤務後に独立。専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の"深い"情報を紹介することをライフワークとする。座右の銘は「この一球は絶対無二の一球なり」。同じ取材機会は二度とない、と自身を戒めるが、ユーモアを忘れないことが取材の集中力につながるとも考えている。「寺田的陸上競技WEB」は20年以上の歴史を誇る。

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