箱根駅伝全国化について神野大地の思いは「選手ファーストで」 クロカンで鍛える現在地 (3ページ目)
【箱根駅伝の全国化。選手のことも考えてほしい】
もうひとつ、聞きたいことがあった。
箱根駅伝は来年、100回大会を迎える。歴史的なレースに向け、今回は全国の大学に予選会の出場が認められ、13番以内に入れば箱根を走れるようになった。だが、箱根駅伝の全国化は、今回のみで101回大会からは従来どおり、関東の大学だけの参加になった。
神野は、箱根で活躍し、ランナーとしての価値を高め、今、プロとして活躍している。この箱根の全国化については、どう考えているのだろうか。
「僕は、箱根駅伝で人生を変えられたので、多くの大学や選手にそういう機会を得てほしいなと思うんですけど、現実的に考えると、今回についてはいきなり感が強かったですよね(苦笑)。昨年に、そういう話が出始めたわけですが、それをやる身にもなってほしいなと思いました。地方の大学の陸上部って、関東の大学のように50人も60人も部員がいるわけじゃない。いても20人前後で、そこから箱根を走れる人を10名出すのは、ほとんど無理な話です。これが、もし5年前に『やるよ」と言われたら『目指そうぜ』という大学がもっと出てきたと思うし、選手も箱根を本気で目指すことができたと思いますけど、あまりにも時間がなさすぎですよね。これじゃ、関東の大学に箱根を走るチャンスが増えただけだと思います」
神野の言葉どおり、地方大学で箱根駅伝に挑戦しようと手を挙げた大学は、立命館大、皇學館大など、まだ少数だ。
「どういう理由で次回以降、地方の大学の参加を認めないと決めたんですかね。今後はないと言っていて、105回目はまたやるというなら今すぐに教えてほしいですよね。箱根駅伝は次回で100回を迎える歴史ある大会、何十年先のことを見据え、考えた決断をしてほしいなと思います」
箱根が生んだスターのひとりである神野は、箱根駅伝に対する思い入れが強い。大学にも選手にも負荷がかかった今回の決定に対して、もっと「選手ファーストで物事を進めてほしい」と考えている。
「全国参加は今回だけになってしまいましたが、MGCの前日が箱根駅伝の予選会なので連日、熱いレースが続きますね」
MGCに向けて着々と練習をこなす日々、神野はそう言って笑みを見せた。
8月は、いよいよレースペースを意識したマラソン練習に入っていく。
(つづく)
PROFILE
神野大地(かみの・だいち)
プロマラソンランナー(所属契約セルソース)。1993年9月13日、愛知県津島市生まれ。中学入学と同時に本格的に陸上を始め、中京大中京高校から青山学院大学に進学。大学3年時に箱根駅伝5区で区間新記録を樹立し、「3代目山の神」と呼ばれる。大学卒業後はコニカミノルタに進んだのち、2018年5月にプロ転向。フルマラソンのベスト記録は2時間9分34秒(2021年防府読売マラソン)。身長165cm、体重46kg。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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