初マラソン日本選手最高記録の西山和弥は「ダメージが体全体に及ぶ」にもかかわらず、なぜ世界陸上→MGCへの出場を決めたのか (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 西村尚己/アフロスポーツ

「世界陸上でマラソンを走ればダメージが体全体に及ぶと思いますし、その2カ月後、どういう状態でMGCにいけるかわからない。すごく難しいと思いますけど、そういう経験は今でしかできないと思うんです。結果的に五輪出場が叶わなかったとしてもこの先に絶対につながると思うので、まずは世界選手権で勝負して、MGCもただの経験で終わらないようにしっかり走れるように準備していきたいと思います」

 世陸とMGCの二兎を追うのはかなりタフだが、女子の松田瑞生も2レースへの挑戦を明言している。それを聞いた西山は「思いとしては、みんな同じなんだな」と思ったという。難しい挑戦であっても、現在、気持ちを維持して練習に集中できているのは、MGCに西山雄介、畔上和弥らトヨタ自動車所属の選手が西山和弥を含めて7名参戦することも大きい。

「トヨタ自動車の選手は個々の能力がすごく高いので、そこで揉まれて、なんとか喰らいついて練習をしています。チーム全体のレベルが高いところでやれているのは他のチームと比べると大きなアドバンテージになるのかなと思いますね。ただ、そのなかでも勝ち抜かないと五輪には行けないので、チームのなかで切磋琢磨して、必死に喰らいついて勝ちたいです」

 西山の競技面に大きな影響を与えるのは、チームだけではない。昨年、結婚したが、そのことも自分の競技には大きなプラスになっている。

「僕はレース後にネガティブになったり、レース前に不安になったり、それが表情や態度に出ることがあるんです。大阪マラソンの前もかなり不安になった時期があったんです。その時、妻に『なんで不安になっているの? 練習ができたんでしょう。自分の練習が信じられないの』って強めの喝を入れられて(苦笑)。自分は練習をしてその練習どおりの結果を出すタイプなんですけど、妻にそう言われて吹っきれました。喝もそうですが、一緒に頑張っているし、レースはひとりで戦うんじゃないというのを感じられているのは大きいですね」

 家族の喝や応援を得て、西山は世陸とMGCに臨むが、前回のMGC(2019年)は日本橋付近で服部勇馬の応援をしていた。最近、そのMGCのレースを見直したという。

「設楽(悠太・当時Honda)さんが先行して、うしろはキロ3分ペースで15キロまで余裕をもって走っていて、そこから鈴木健吾(富士通)さんが5キロを14分42秒のペースに上げて前に出たんです。いろんな駆け引きがあり、ラスト3キロから中村匠吾(富士通)さんがスパートして優勝したんですが、速い時は5キロ14分30秒とか40秒(のペース)になっていました。ペースメーカーがいないとそういうスピードが必要になってくるなと思いましたし、キロ3分よりも上げたペースの余裕度が必要だなと思いました」

 今回のMGCも基礎スピードを上げるのが重要だと考えているが、コース(国立競技場発着)は初マラソンでタイムを出した大阪と似ているところがあるようで、西山にとっては「1回結果を出せているというところで自信をもっと臨める」という。

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