3代目山の神・神野大地「坂をトップで行ければ優勝できる」MGCで狙うレース展開を語る (2ページ目)

  • 佐藤俊●文・撮影 text & photo by Sato Shun

 そのひとつが、「判断」だった。

「MGCのレースは、すごく動くんです。スローの展開でも途中の1キロや数百メートルだけペースが上がったりする。そこで判断ミスをすると命とりになります。MGCで勝つには、判断を誤らずに自分の勝負時を待って仕掛けることが重要になるんですが、これは大迫(傑)さんがすごくうまいですよね。大迫さんは、冷静に正しく判断されている気がします。僕も判断力を高める必要があると思い、そういった練習に取り組んでいます」

 それは、どんな練習なのか。

 距離とトータルのタイムを決め、藤原新コーチ(スズキ)が自転車で引っ張る。この時、1キロの設定は藤原コーチだけが知り、神野と、一緒に練習をしているスズキの選手は知らない。突然、藤原コーチがペースを上げると、そこについていく選手、ついていかない選手が出てくる。ここで流れに乗っていくべきなのか、それとも流れは無視して自分のリズムを大切にして走るべきなのか。判断力を磨き、どう動くべきかを考えるだけではなく、自分の能力を知ることにもつながる。

「たとえば、いきなりペースが上がってすぐに反応したら呼吸が苦しくなるとか、そういう自分のことを知ることも、レースで適切な判断を下すうえで重要になってきます」

 通常の練習においても、神野は強化するポイントを明確にして取り組んできた。ポイント練習は力を出しきることが求められるが、神野が重視したのは「スピード」と「余裕度」だった。

「マラソン練習前にスピード練習をしています。スピード練習をせずにマラソンのクルーズインターバルをやるとフォームがガチャガチャになり、トラックで追い込まれた時のような動きでマラソンを走る感じになってしまう。それでは余裕を持ってマラソンは走れない。昨年からトラックで言うと5000mを14分前後、1万mでは28分30秒前後で最低でも走れる状態を作ったうえで、マラソンの練習に入っていきます。そうするとマラソン練習のクルーズインターバル系の練習が余裕をもってできるし、動き自体も余裕が出てくるんです」

 2021年の防府読売マラソンは、このやり方で結果が出た。今年2月の福岡クロカンでは29分38秒で4位に入り、ネパールでのアジアクロカンに日本代表として出走し、2位に入った。「福岡では想像以上のタイムが出た。この時期にこのスピードになっているのは、すごくいい流れ」と手応えを感じた。

 トレーナーの中野ジェームズ修一も余裕を持ってできるトレーニングメニューを提供している。

「トレーニングをやる際、神野は60~70%ぐらいの出来を目指していたのですが、今は40~50%に抑えています。余裕をもってやることで、そこからふだんの練習と絡めて能力を上げていける。詰め込むのではなく、妥協し、余裕を持たせてあげると伸びしろが増えるんです」

 トレーナーとしては、もう少し追い込みたい気持ちがあるという。だが、抑えることで神野のパフォーマンスが上がったので、そのやり方に切り替えた。

 また、中野は、神野に「精神的な余裕を感じる」と言う。

「神野は常にカッコよくありたいと思っているので、本当はカッコよくない自分をSNSで出すのはイヤなんです。でも、そこでカッコ悪い自分を見せている。そこにメンタル的な成長と強さを感じますね。あと、MGCを1度経験しているので、初出場する選手と違いアタフタした感じがなく、気持ちの面でも余裕を感じます」

 トレーニングは順調で、このままいけば予定よりも3週間ほど早く仕上がる予定だ。

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