3代目山の神・神野大地「坂をトップで行ければ優勝できる」MGCで狙うレース展開を語る (3ページ目)
いい流れできている神野にとって、もうひとつテンションが上がることがあった。自ら「RETO RUNNING CLUB(RRC)」を創設し、目標達成を目的とするランニングチームを立ち上げたのだ。
「昨年の5月に立ち上げて、1年が経過しました。60名ぐらいますが、みんな、目標タイムを達成したり、PB(自己ベスト)を更新したり、すごく頑張っています。そのメンバーの姿を見ていると改めて努力すれば報われるというのを感じました。今は2週間に1回の練習会がすごく楽しみですね。先日、胃腸炎で練習会を休んだんですけど、その時の練習会の写真を見て、すごく行きたかったなぁって思ったんです。そういう気持ちになるぐらい、今の僕にとってRRCは生きるうえで大きなモチベーションになっています」
練習会で神野は練習を引っ張るだけではなく、メンバーが出場するマラソンに応援参加する。名古屋ウィメンズマラソンでは沿道で応援していると周囲の人に驚かれたそうだが、その声に応え、PBを出すメンバーが続出した。神野も応援の力を認識しており、「MGCでのRRCの応援が楽しみです。絶対に背中を押してくれるんで」とメンバーの声を力に変えて走る覚悟だ。
今年30歳になって迎えるMGCだが、昨年の夏は、「今回のMGCが五輪を狙う最後のレースになる」と言っていた。
今、神野はどんな覚悟でMGCに臨もうとしているのか。
「今は最後になるかどうかMGCが終わってみないとわからないですね。五輪出場を目指して毎日苦しい練習をするのはしんどいですけど、まだ体は動きますし、自分の気持ちさえあればまだやれるなって思うんです。仮に五輪という目標がなくなっても自己ベスト更新だけを追求し、自分史上最速を目指していくのもいいかなって思っています。MGCのレース内容にもよりますが、もう少し現役にこだわっていきたいと思います」
現役にこだわるのは、積極的に全国で行なっているランニング教室で感じることでもあった。現役である今の自分だからこそ、教わる側も目の色を変えて参加してくれるのだと。もちろんそれだけではなく、MGCで戦える自信が膨らんできたからでもある。
今年2月9日に発表されたMGCのコースは、折り返しが6か所、38キロの市ヶ谷付近まではほぼフラットだ。だが、そこから高低差30mほどの登り坂が約3キロ続く。
神野は、ここが勝負所だと考えている。
「あの坂は、レース後半のきついところで出てくるので、そこで僕が仕掛けたら『神野、この坂で行くのか』って、みんな、心が折れると思うんです。スパートが強い選手は、大迫さんを始め結構いると思うんですけど、坂が強いのは僕だけ。この坂を終えてもまだ長いので勝負はわからないですが、その坂をトップで行ければ優勝できると思っています」
「3代目山の神」として、坂を制し、トップで国立競技場に入る。その展開を描きつつ、4月中旬、神野は長野県の富士見で合宿に入った──。
PROFILE
神野大地(かみの・だいち)
プロマラソンランナー(所属契約セルソース)。1993年9月13日、愛知県津島市生まれ。中学入学と同時に本格的に陸上を始め、中京大中京高校から青山学院大学に進学。大学3年時に箱根駅伝5区で区間新記録を樹立し、「3代目山の神」と呼ばれる。大学卒業後はコニカミノルタに進んだのち、2018年5月にプロ転向。フルマラソンのベスト記録は2時間9分34秒(2021年防府読売マラソン)。身長165cm、体重46kg。
著者プロフィール
佐藤 俊 (さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。
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