箱根駅伝6位の早稲田大。躍進の裏にあった花田勝彦監督の冷静な分析「全区間、ほぼ設定どおりのタイムで走ってくれた」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 日刊スポーツ/アフロ

──5区の伊藤大志選手(2年)は、前回が5区11位、今回はという気持ちが強かった感じがしました。

「伊藤は自信を持っていましたね。予定では区間5位から8位、想定タイムは72分でした。前半、創価大の野沢(悠真・1年)君と競り合う展開になって力を使った感があったので、中間は思ったよりも伸びなかった。でも、ラストは伸びて、しっかり71分台(71分49秒・区間6位)を出してくれました。山に特化した練習はせず、ひたすら走力を磨いてきたなか、今回は100%に近い力を出しきってくれたと思います」

──往路は、5位という結果でした。

「選手の練習を見てきたなかで想定タイムを作っていたんですが、そのタイムと実際のタイムの誤差がほぼなくて、やってきたことをレースで出すという今回のテーマをきっちりとやってくれました。それが復路のメンバーが落ち着いて走れる要因にもなったと思います。往路は、5時間27分33秒でほぼ設定どおり、総合の想定タイムは10時間55分だったのですが、それでシードを落としたら、それは監督の責任なので復路も想定タイムをクリアしていきましょうという話を選手にしました」

 復路は、前評判が高かった6区の北村光(3年)がどこまで順位を上げられるか。その後、8区が終わった時点で、どの順位にいるのかというところがポイントになると花田監督は見ていた。

──6区の北村選手の走りは、圧巻でした。

「北村は私が見てきたなかで一番下りがうまい選手ですが、走力、練習量が足りていなかったんです。そこで下りに特化してやるよりも全体の走力を上げることにフォーカスして夏以降やってきた結果、主力クラスと変わらない練習ができていた。でも、3位まで順位を上げてくるとは思っていなかったですね(笑)。想定タイムは、58分30秒前後を考えていたので、タイム的にはもう少しいってほしかったですが(58分58秒・区間3位)、やってきたものは出してくれたと思います」

──7区の鈴木創士選手(4年)は、小指卓也選手(4年)との当日変更でした。

「本来は、山口だったんですが、走れないので10区に入った菅野を7区に持ってこようかなとも考えました。でも、7区はエース級の選手が入る区間。主将の鈴木が入るということになれば他校に与える影響が違うと思うんです。本人には『64分00秒から30秒ぐらいでつなぐ走りができるか』と聞いた時、『それならいけます』と言ってきましたし、チームのメンバーからも1年間、鈴木がチームを牽引してきたので、『創士さんが走ったほうがいい』という意見が多かった。ただ、全日本の前に疲労骨折をしたり、12月に風邪を引いたり、練習は60~70%程度しかできていなくて、本来の調子ではなかったですね」

──区間12位でしたが、想定タイム(64分12秒)できました。

「前半の3、4キロですでに余裕がなくて、うしろから見ていてもちょっと心配な感じがしました。後半の途中には國學院大に追いつかれて、しばらく並走したんですが、それが結果的にはそれほど落とさずに走れることにつながったのでよかったです」

──8区、9区は我慢の駅伝になりました。

「伊福(陽太・2年)は、下りが得意でチームで一番練習量が多く、力が安定していたので8区に起用し、順位を維持する走りをしてくれました。9区の菖蒲(敦司・3年)は全日本の結果(6区15位)がよくなくて、長い距離への不安がありました。想定タイムは69分15秒だったのですが、集団でいけたせいか、69分12秒で3秒ほど早く、チームにプラスの走りをしてくれました」

──10区は、当日変更で菅野選手になりました。

「辻の調子がよかったので、どっちにするのかというところで迷いはありましたが、菅野に任せました。最後、順天堂大があんなにくるとは思っていなかったですね(苦笑)。欲をいえば5位を獲りたかったですけど、菅野は想定タイムよりも20秒以上早かったのでよく粘って走ってくれたと思います」
 

 限りなく5位に近い6位となり、チームとしての目標を達成できた。各選手がほぼ想定タイムで走り、内容的にもいい流れで全10区間を戦い、強い早稲田復活の足掛かりとなるレースになった。

 

後編に続く>>「そのうち早稲田がくるな」、青学大・原晋監督や駒澤大・大八木弘明監督からの激励

◆箱根駅伝2023特集 レースの裏側、監督インタビューなど他の記事を読む>>

プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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