箱根駅伝18位の立教大に足りなかったもの。上野裕一郎監督「今頃、精神論かよと思われるかもしれないですけど...」 (2ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by 時事

 駅伝など大きな大会は、ひとつも欠かせない。そういう意味でシード権を獲得して、出雲駅伝の出場権を獲得したかったと上野監督は言う。ショートレンジでの駅伝であれば、スピードがある選手が多く、十分戦うことができるし、そこで得たものが箱根につながると思っているからだ。今回、そのプランは消えたが、これからは学生ハーフ、関東インカレ、そして全日本大学駅伝予選会などが上半期の大きなレースになる。上野監督は新チームをどう箱根に導いていくのだろうか。

──新しいシーズンから練習、強化の取り組みに新しいことを導入していきますか。

「年間の流れは、これまで作り上げてきたものでほとんど変えません。春夏合宿のメニューもある程度固定化して、成長を数値化して見ていけるようにします。春のトラックシーズンに入ってからは大会ごとにフォーカスして、練習に違いを出していこうと思っています。それもこれまでやってきて、選手もわかってきているのでスムーズにやれると思っています」

──今回の箱根の結果を受けて、距離を踏む練習にはシフトしない、と。

「そうですね。うちは箱根駅伝のために競技をやっているわけではないので、トラックも含めてオールマイティーにやっていくのが自分たちのスタイルでもあります。ロングを軸にがんがん練習させて、駅伝にもっていくのは簡単なんですけど、それじゃ陸上を楽しむ気持ちを失ってしまう。立教は、自分で考えて、なんでもできるよ、というのがモットーです。それを軸にしているので、退部者が出ないんです。他大学ではライバル同士で当たりが強くなったり、監督とそりが合わないとか、チームの雰囲気が合わないのでやめてしまう選手がけっこういるじゃないですか。うちでやめるなら他大学だと100%やめてますって、うちの選手は言っています(苦笑)」

──上野監督の指導も独特ですからね。

「新しい指導スタイルみたいに言われますけど、僕は好きで走っているだけです。監督は選手のことを第一に考えて、選手に練習など、よりよい環境を与えるのが仕事だと思うんです。箱根上位校の監督さんは、それができているのですが、僕には指導経験も言葉で説得できるような力もないし、まだまだ未熟です。自分が他の監督に勝てるものは何かというのを考えた時、走る指導スタイルが生まれてきました。あと数年もしたら、このスタイルができなくなるかもしれないですが、立教のスタイルみたいなものをきちんと形作っていきたいですね」

──立教大学創立150周年記念事業で、5年計画で箱根駅伝出場を目指しましたが、4年で実現しました。1年前倒しで出場できた経験はチームにとって大きいですね。

「今回、箱根に出場できたことで選手たちはいろんな経験ができましたし、自分自身、気持ちが少しラクになりました。でも、目標は2024年の第100回大会に出場することです。来年の箱根に出ないと今回出た意味がなくなってしまいますし、来年も箱根で戦ってこそ本当のスタートになると思うんです。過去、いろんな大学が箱根に出たり、落ちたりしているけど、そういうのを繰り返すことはしたくない。そのために、今年は言うべきところはきちんと学生に伝えていこうと思っています」

──指導をより厳しくということでしょうか。

「今までは、選手にダメなところがあってもそこをうまく濁しながら伝えていたんです。雰囲気とか崩したくなかったので。でも、この春からはハッキリとストレートにいいことはいい、悪いことはダメと伝えていこうと思っています。その段階で『監督、何言ってんの』『ふざけるな』と思うのか、それとも『そうだな』と思うのか。前者だと、成長できないでしょうし、そういう選手は箱根を走るメンバーには選ばれないでしょうね」

──選手へのアプローチが太陽から北風に変わると反発も起きそうですが。

「そこには気にしていません。本当に強くなりたい、箱根を走りたいと思う選手は、自分の厳しい言葉を受け止めて、必ず這い上がってきます。そういう選手の集合体になれば、自信をもって箱根でも戦える。『立教、おもしろいね』って言ってもらえる存在になるんじゃないかなと思っています」


上野裕一郎(うえの・ゆういちろう)
立教大学陸上部男子駅伝監督。1985年7月29日、長野県生まれ。身長183cm。
佐久長聖高校、中央大学、ヱスビー食品、DeNAを経て現職。現役選手でもあり、「ランナー兼指導者」の二刀流で活動する「日本一速い監督」。2023年1月22日に行なわれた第28回全国都道府県対抗男子駅伝では、長野県代表としてアンカーで出場し、1位でゴールテープを切った。

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【筆者プロフィール】佐藤 俊(さとう・しゅん)
1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。

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