MGC勝者・中村匠吾の武器はロングスパート。周到な計画で才能が開花した

  • 加藤康博●文 text by Kato Yasuhiro
  • photo by Jun Tsukida/AFLO SPORT

東京五輪&パラリンピック
注目アスリート「覚醒の時」
第11回 マラソン:中村匠吾
マラソン・グランド・チャンピオンシップ(2019年)

 アスリートの「覚醒の時」──。

 それはアスリート本人でも明確には認識できないものかもしれない。

 ただ、その選手に注目し、取材してきた者だからこそ「この時、持っている才能が大きく花開いた」と言える試合や場面に遭遇することがある。

 東京五輪での活躍が期待されるアスリートたちにとって、そのタイミングは果たしていつだったのか......。筆者が思う「その時」を紹介していく──。

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昨年のMGCで服部勇馬、大迫傑といった実力者を振り切り、トップでゴールした中村匠吾昨年のMGCで服部勇馬、大迫傑といった実力者を振り切り、トップでゴールした中村匠吾 マラソンランナーとして覚醒したと感じた瞬間はいつか──その問いに中村匠吾(富士通)は「2019年9月のMGC(マラソン・グランド・チャンピオンシップ)」と答える。

「マラソンで初優勝できましたし、内容的にもそれまでは後半にペースダウンすることが多かったのですが、MGCでは自らレースを動かしてペースを上げられました」

 東京五輪代表を決めた会心のレースだ。その雄姿を記憶している方も多いだろう。

 この時、中村は39.2㎞付近からスパートした。一度で終わらせることなく、2度、3度とギアを上げ、追いすがる日本記録保持者、大迫傑(ナイキ)と服部勇馬(トヨタ自動車)を振り切った。40kmからフィニッシュまでのタイムは途中に上りがあったにも関わらず6分18秒。これは驚異的な数字だ。

 ラストの強さは学生時代から磨き続けてきたものだ。2014年の箱根駅伝1区。当時駒澤大3年の中村は20㎞手前から抜け出したが、仕掛けが早すぎたために最後までもたず逆転を許し、区間2位に終わっている。

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