「自分で自分をほめたい」。五輪連続メダル・有森裕子の名言の舞台裏 (2ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by PHOTO KISHIMOTO

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 17kmでピピッヒが集団に吸収されてレースは落ち着きを見せはじめたが、19kmでファマツ・ロバ(エチオピア)が飛び出した。だが、集団は動かなかった。

「小出義雄監督から『16kmまでは苦しいと思うが、そこを頑張って集団についていけ。誰か1人が飛び出したら、2位集団につけ』と言われていました。ロバ選手が飛び出した時はちょうど座骨の痺れが出ていて、脚の動きが鈍いなと思っていたので、ついて行かなかったんです。まさか彼女が優勝するとは思っていなかった」と言う。ロバは、他の強豪選手たちからもノーマークだった。

 ロバは、25kmで2位集団との差を53秒にして、その後もジワジワと差を広げて独走状態に持っていった。5人が追う展開になったが、有森は30kmを過ぎた下りでスパートした。

「監督からは、『得意の下りは自分のペースで行け』と指示されていました。とりあえずそこを頑張って、押すだけ押したらあとは逃げ切れるかな、という思いもあった」と話す。1人で抜け出すことに成功した時には、「これでバルセロナと同じ銀がとれるかな?」とも考えた。

 だが、33kmでバルセロナ五輪でも死闘を繰り広げたエゴロワが追いついてきた。下りきってからの有森は座骨の痺れが再び出てきて、脱水症状のような感覚だったという。結局、34km手前の上り坂でエゴロワに突き放され、3位に落ちた。

「エゴロワ選手は絶対に来ると思っていたし、バルセロナと同じような状態になっても嫌じゃなかったですね。どんな状況になっても、彼女と戦えることがうれしかった。40kmを過ぎてからは監督に『ドーレが来ているから逃げろ』と声をかけられたけど、それは自分を前に進ませるための言葉だと思っていたんです。でも、競技場に入ってそれが本当だったとわかり、ちょっと焦りました」

 こう話す有森は、6秒差でドーレの追撃を振り切って3位でゴール。日本女子陸上初の2大会連続メダル獲得を果たした。

 ゴール後に有森が口にした、「初めて、自分で自分をほめたいと思います」という言葉は、当時大きな話題になった。その2日後のインタビューで、彼女はこう語っていた。

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