【月報・青学陸上部】いま明かす田村和希の失速、下田裕太の激走の真実 (3ページ目)

  • 佐藤 俊●文 text by Sato Shun photo by Nikkan Sports/Aflo


 12月30日、田村和は体調を崩し、鼻水が出るなど風邪の症状が表れた。このまま無理して練習をすると箱根を走れなくなると思ったので、勇気を持って原監督に言った。

「今日、1日だけ休ませてください」

 丸1日、休養を取ったおかげで鼻水が止まった。翌日の練習では走りにキレを感じた。体にダルさや筋肉の張り、違和感などもなく、何事もなかったかのように箱根当日を迎えたのである。しかし......。

「今シーズンは夏合宿からずっと調子が良くて、出雲と全日本でいい走りができていましたし、箱根1カ月前の10000m学連記録会でも自己ベストを出すことができました。いい流れできているし、力もついてきた。これならちょっとぐらい体調を崩しても箱根は大丈夫だろうって思っていたんです。でも、甘くはなかった。やはり少しでも体調を崩してしまうと箱根は走れない。これが陸上の厳しさ、駅伝の厳しさだなって思いましたね」

 田村和はずっと好調だったがゆえに"過信"という落とし穴にハマったのだ。実は、春先にも病気にかかり、調子を落としたことがあった。4月の記録会で5000mの自己ベストを出すなど好調だったが、5月の関東インカレが終わった後におたふく風邪にかかり、10日間ほど離脱した。その時は完全に復帰するまで1か月近くかかっている。今回の風邪は重症ではなかったが、ダメージが内臓に残っていた。体調不良で消化機能が十分に働いていない可能性が高かった。また、箱根3日前に寝込んだがゆえにレースへの不安やストレスを抱えていたのだろう。そうした複数の要因と暑さが重なり、脱水症のような症状を引き起こしたのだろう。

 平塚中継所では2位の早稲田大に1分21秒差にまで追い上げられた。ほとんどジョグのようなペースだったが、決して止まらなかった。それが今シーズン、結果を出してきた田村和の底力だった。最後は襷を手に取り、拳に巻きつけて走った。そうすると体全体にパワーがチャージされ、一歩先を踏み出せる気がした。

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