新しい車いすで上地結衣は次のステージへ 「私とテニスをしてください」と自ら元王者・国枝慎吾にサーブの相談 (2ページ目)

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • 植原義晴●撮影 photo by Uehara Yoshiharu

【国枝慎吾からアドバイス】

 4月のジャパンオープンには単複でエントリー。毎日車いすのセッティングを変え、よりよいポジションやプレーを模索した。女子シングルス決勝ではデフロートとの対戦が実現し、0-6、4-6のストレートで敗れたが、デフロートのボールの威力やバウンドの回転量にマッチしなかったこと、どのように間合いを取られて試合のペースをコントロールされるのか、そのなかでも自分がポイントを取れるパターン、制限はかかるがポジションに入れればかなり良いショットが打てる、など「良いことも、悪いことも」さまざまな収穫があったと前を向く。

「思い描くプレーがなかなかできなかった。もちろん勝ちたかった。でも、やっと1カ月たった車いすで、どこまでできるのかを知るのが今回の目標のひとつだった。出場してよかった」

 手ごたえもあった。第2セットは1-4とリードされながら、第6ゲームから4-4に追いついた。とくに第8ゲームは安定したサーブでデフロートのリターンアウトを誘い、ラブゲームで奪った。ほかのショットと同様に、サーブも球種を変えて、スピードにも変化をつけるなど試行錯誤しているところだ。新しい車いすにして姿勢がまっすぐな分、後ろに反ることはできるが、それを戻す体幹が土台としてないと威力が不十分でダブルフォルトも多くなる。だが、うまくハマった時はこのゲームのように「相手にさせたいこと」ができ、それが勝利への糸口となっていくのだ。

 実はこのサーブについては、元世界王者で1月に引退した国枝慎吾氏からの金言があった。1月のオーストラリア遠征から帰国後に東京に滞在した際、国枝氏に「私とテニスをしてほしい」と声をかけ、相談する機会を得ていたと明かす。

「国枝さんはすごくサーブがお上手だった。男子のなかで一番速いサーブを打つ選手ではなかったけれど、回転量がすごかったし、バリエーションが豊富だった。いろんな技を持っていたからこそ、サーブからのポイント取得率が高かったんだと思います。なので、どうやって打っていたんですか?って聞いてみたんです。そうしたらいろいろアドバイスをくださって。私は自分の背丈(身長143cm)やパワーを考えるとスピードを出すには限界があるので、すごく参考になりました」

 上地は5月1日からポルトガルで開催されるワールドチームカップ(国別対抗団体戦)の女子日本代表に選出されている。クレーコートシーズンも本格的に始まる。とくに、全仏オープンは過去に4度制しており、6月の大会で3年ぶり5度目の優勝なるかに注目が集まる。

「ローランギャロスはパリパラリンピックの会場にもなる。車いすをしっかりと調整して、どれだけクレーで力を発揮できるか。楽しみですね」と、上地は言葉に力を込める。

4月24日に29歳の誕生日を迎えた日本のエースは、新たな境地に挑戦し自らの可能性を切り拓いていく。

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