車いすラグビー界のレジェンド島川慎一。48歳でも「今がベスト」とコーチも絶賛、チームメイトは「この人が味方でよかった」

  • 荒木美晴●取材・文・写真 text&photo by Araki Miharu

「2023ジャパンパラ車いすラグビー競技大会」が2月2日から4日間にわたって、千葉ポートアリーナで開催された。東京パラリンピックと昨年の世界選手権で銅メダルを獲得し、世界ランキング4位(2月8日現在、以下同)につける日本代表が、同1位のアメリカ、同2位のオーストラリア、同5位のフランスと対戦。強豪を相手に日本は1次リーグを6戦全勝で勝ち上がり、決勝でもフランスを57―54で破り、完全優勝を果たした。

日本の車いすラグビーが強くなってきた過程を見てきたチーム最年長の島川慎一日本の車いすラグビーが強くなってきた過程を見てきたチーム最年長の島川慎一 来年のパリパラリンピックの開催国であるフランスは着実に進化を遂げており、ライバル国がもっとも警戒するチームのひとつだ。今大会も東京パラリンピックと世界選手権に出場したメンバーでチームを編成しており、実戦経験の上積みを意識していることがわかる。

 一方のアメリカとオーストラリアは、若手選手や国際試合の経験が少ない選手も招集。日本にとっては初めて対戦する選手がいるため、やりにくさがあったと思われるが、いずれの強敵に対しても相手に当たり負けしないフィジカル、複数のラインナップを使い分ける戦術、展開を先読みして相手の攻撃の芽を摘むディフェンス力を武器に対峙し、見事に勝ちきった。

 日本もまた、パリ大会での金メダル獲得は悲願である。この揺るがない目標の達成が、選手とスタッフの最たるモチベーションであり、チーム力底上げの原動力となっている。

 そんな日本代表のなかで今大会、存在感を示したのが、島川慎一(3.0/バークレイズ証券)だ。競技キャリアは24年、パラリンピックに5度出場しているベテランで、チーム最年長の48歳。気の抜けない試合が続くなかで、チームの精神的支柱となったのはもちろん、ハイポインターとして最前線で奔走し、随所で好パフォーマンスを発揮した。

 ゲームの流れを変えたい場面で投入されることが多く、今大会も主にセカンドライン(ライン=選手の組み合わせ)で起用された。1次リーグ初戦でフランスを相手にプレータイムを伸ばした島川は、翌日の再戦で、第2ピリオドは交代せずに出場し続け、序盤のリードをさらに広げるなどして勝利に貢献。さらに決勝では、フランスの攻守の要であるセバスチャン・ベルダン(3.0)に強烈なタックルを浴びせ、ターンオーバーに成功。互いに1点を争う緊迫した展開から一気に日本に流れを引き寄せた。

 代表合宿に加えて、個人トレーニングの量も質も上がっているといい、島川のトップスピードで走りながら一試合を戦いきるフィジカル、経験に裏打ちされた勝負どころを見逃さない判断力は、チームの屋台骨だ。同じラインになることが多い橋本勝也(3.5/日興アセットマネジメント)は、個人練習で一緒に励む仲。チーム最年少の20歳の橋本について、島川は「同じ目標に向かってしのぎを削るよいライバル」だと言い、キャリアや年齢に関係なく切磋琢磨できる環境がさらなる成長につながっている。

 島川のことを昔から知るフランス代表のコーチは「彼は若い時よりいいプレーをしている」と舌を巻き、日本代表のケビン・オアーヘッドコーチも「彼のキャリアのなかでも、今がベストの状況」と評価する。

 決勝後に島川とともに取材に応じた池崎大輔(3.0/三菱商事)は、「僕は島川選手の背中を見てここまできている。最年長で誰よりもハードワークができる、偉大な先輩。(決勝のタックルで)相手がふっとんで盛り上がったし、一気に雰囲気を変えたのはさすが」と振り返る。そして、「......この人が味方でよかった」と語り、隣の島川を笑わせた。

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