国枝慎吾、王者感の喪失が生む探求心「答えを見つける能力は上がっている」

  • 荒木美晴●取材・文 text by Araki Miharu
  • photo by SportsPressJP/AFLO

 パラリンピックイヤーの幕が明けた。車いすテニス・国枝慎吾選手にとって、東京大会は5度目の出場となる。グランドスラムのシングルスで22回の優勝を誇る彼にとっても、パラリンピックは「特別な場所」だ。このたび、スポルティーバのインタビューに応じてくれた国枝選手。「いい1年だった」と話す昨年の振り返りとともに、2020年の目標ついて聞いた。

昨年の楽天オープンでは、東京パラリンピックの本番会場でプレーした国枝慎吾昨年の楽天オープンでは、東京パラリンピックの本番会場でプレーした国枝慎吾―― 2019年はどんな1年でしたか?

国枝慎吾(以下、国枝)グランドスラムのシングルスで優勝できなかったのは、すごく残念だし、物足りないです。テニス選手としてはそこが一番の見せ場であり、仕事場ですから。でも、他の大会では9回優勝。実は、いままでのキャリアのなかでは一番、年間の勝利数が多いんです。なので、全体としてみれば、いい年だったのかなと思います。

―― そのなかで、一番の手ごたえは?

国枝 ずっとバックハンドのテークバック改善に取り組んできて、7月に再びグリップを変えてみたんです。寝かし気味だったものを、立てる動作に変更しました。それが、負けた全米オープンの翌週のセントルイスの大会でピタッとはまって、「この当たりがほしかった」という感覚を掴みました。これだったら十分攻撃力があるし、バックハンドのウィナーも増えていくだろうと想像できたので、すごく自信になりました。

―― 負けた試合から収穫を得たということでしょうか。

国枝 そうですね。今年に関しては、敗戦のタイミングで何かしら新しいアイデアが浮かんでいて、それに取り組むことができています。世界マスターズで負けたあとも、強化しているサーブとフォアハンドのヒントを掴みましたし、今シーズンがすごく楽しみです。

 ただ、グランドスラムで勝ちたいという気持ちは、他の大会より明らかに強くなります。昨年はそれが力みにつながって、自分の力を100%出せないことが多かったので、そこは反省点。今年に活かしたいですね。

―― 岩見亮コーチと組んで3年目を迎えます。練習の仕方は変わってきましたか?

国枝 2019年は岩見コーチと互いの意見をぶつける機会が多い1年でした。今話した僕のアイデアって、自分のなかにフッと降りてくるんですよ。ひとつのヒントでショットがいきなり新鮮なものになったり、劇的に変わったりするので、とにかく岩見コーチと一緒にトライしてみて、いいかどうか判断します。ダメだったら戻せばいいし。その経験をいくつ持てるかが選手の実力、成熟度につながっていくと考えているので、常にアンテナを張っておきたいですね。

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