杉本和陽六段が振り返る藤井聡太棋聖との初タイトル戦 師匠の形見を羽織って挑み、「一番好きな瞬間」を体感した (3ページ目)
【将棋との向き合い方に変化「誰かと比べるのをやめました」】
「私が三段リーグを戦っていた当時は『10代のうちに四段に昇格できるかどうか』が、その後の活躍を図る指針になっていて、年齢の遅い昇格に劣等感を味わうこともありました」
四段昇格後の苦労をそう語る杉本六段は、対局を続けるなかで、ある思いが芽生えたという。
「小学生の頃から他人と比較される世界で生きてきたので、気づいた時には何かを比較するような価値観が刷り込まれていました、それが、ふとした時に『誰かと比べたり、負けた時の自分を否定し続けていたら、先々まで頑張ることができないのでは?』と考えるようになって。奨励会に在籍する若手のみなさんと将棋を楽しんだり、自分の戦法を研究する時間をこれまでよりも大切にするよう心がけるようにしたんです」
そうして棋士として9年のキャリアを重ね、自分なりの将棋との向き合い方を見出して五段まで昇格すると、2024年5月から始まった棋聖戦の予選を勝ち上がり、挑戦者決定戦では永瀬拓矢九段を下し、初のタイトル挑戦権を獲得。藤井棋聖に挑むことになった。
師匠の米長氏が永世資格を持つタイトル戦には、同氏の形見である和服を着用して挑んだ。
「対局に向けて右も左も分からずに準備を進めていた時に、たまたま師匠の奥様に結果のご報告に伺う機会がありまして。その時に譲っていただきました。棋聖戦は師匠が初めて獲得し、永世称号も取得されているタイトルなので、思い入れも強い。生前の師匠が抱いていた気持ちを背負って、対局に臨みました」
3 / 5