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【体操女子】杉原愛子が語る10年ぶりのNHK杯優勝の意義「休む勇気も大切、ということを伝える意味にもつながったのかな」 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【休む勇気がさらなる成長に】

「私自身、3年前に1回競技にひと区切りつけてから復帰しました。(若いうちから)競技をやっている選手たちには特にわかると思うけど、体的にも精神的にもつらい部分が多いと思います。なので逆に1回休むっていうこと(選択肢)も......今回10年ぶりに優勝したというのは、(競技を)休む勇気も大切だっていうことを伝える意味にもつながっていると思います。

 あとはやっぱり体操をメジャースポーツにすることが一番目標なので、今日はたくさんファンの皆さん、観客の皆さんが来てくれたのですごくうれしかった」

 こう話す杉原は、10月の世界選手権へ向けての意欲もこう語った。

「個人総合での出場は2017年ぶりになりますが、まずはケガをしないことを目標にしてやっていきたい。あとは、得意としているゆかでメダルを狙いたいという大きな目標を立てながら世界を見て、戦略を組んで出ていきたい。

 今季の大会を見た感じでは、Eスコアの表現などの部分の減点が厳しくなっていると思うからこそ、Eスコアの部分をもっともっと磨きたい。今日は8.1点だったが、8.3点、8.4点を狙っていきたいなと思います。またDスコアの面でも水平ターン2回や足持ちターン3回をきっちり決めて、今日落とした0.1点を拾うことを練習課題としてやっていきたいです」

 4月からは東大阪のアインス体操クラブを拠点にしているが、東京で仕事がある時にはNTC(ナショナルトレーニングセンター)で合宿を組んだり、試合前は大学の施設を使わせてもらうなど、練習場は転々としている。そんな環境でも競技を長く続けられる要因を、杉原を指導する大野和邦コーチに聞くと、「何よりも本人が、体操好きで楽しんでいるから」とし、こう続ける。

「体の動かし方もそうですが、巧みさというか熟練度はどんどん増している。筋力が強くなったというより、動かし方が上手になった。自分の個性や強み、弱点もわかっているので、『この弱点をちゃんと解消して』ということも考えたり、いろんな意味で効率がよくなり、質の高い選手に成熟しているのかなという印象です。

 本人も『ゆかで世界と戦いたい』という気持ちが強いが、今回は前回ミスしたところを一つひとつ成功させただけではなく、見に来てくださっている方々へのメッセージとして、ターゲットをちゃんとオーディエンス(観客)に向け、きちんと演技ができているという面では、彼女は突出していると思う。

 もう完全に自立している選手なので、僕はちょっと足らないところのアシストをしたり助言をしたりという程度。自分でプログラムを立てて淡々とやってこの成果なので、ただただすごいなと思っています」

 29歳になる年にある2028年ロサンゼルス五輪は、「その過程の厳しさも知っているゆえに簡単に『目指します』とは言えません」と現段階での率直な気持ちを表し、「ただ、2026年に名古屋であるアジア大会は目指したい」と話す杉原。

 一時休養を挟んでトップシーンに戻ってくるという、これまで日本の女子体操にはなかった新たな道筋を、さらにどう切り開いていくか。興味は尽きない。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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