為末大に聞く東京オリンピックの意義 レガシー、アスリートファーストとは何だったのか? (2ページ目)

  • 西村 章●取材・構成 text by Nishimura Akira

【日本社会における競技スポーツと生涯スポーツ】

――もうひとつよく使われた言葉に、「アスリートファースト」があります。その「アスリートファースト」とはいったい何だったのでしょうか。また、そのキャッチフレーズが象徴するものは、現在に継承されているのでしょうか。

為末:そもそもアスリートファーストは、巨大な放映権とベッティングが存在する欧米で選手を守る必要があって生まれた概念だと思います。日本では、それがあまりなく観客より競技者中心で発展しているので、すでにアスリートファーストなんじゃないか、という印象があります。ただ、日本のスポーツ予算は、配分が施設に極端に偏っているんです。そういう意味では、もしかしたら日本は建物ファーストで、アスリートはセカンドかもしれない(笑)。

 わかりやすい例で言えば、スポーツ施設の管理団体が行政から業務委託を受ける際に「この金額で維持管理してくだい」という契約になっていることが結構あるんです。そうすると、施設が傷まないほうが維持管理費も下がるから、なるべく人が施設を使わないようにしたほうがいい、ということになる。

――維持管理のために施設を利用させないのは、本末転倒ですね。

為末:そのとおりです。日本のスポーツのシステムは、中高大の部活が才能のある子どもをピックアップしてトップアスリートまで育成してくれるから、その意味では優れているのですが、スポーツをただ楽しくやりたい子、さらに言えば生涯にわたってスポーツを楽しみたい人々にはアクセスがしにくくて、オリンピックで活躍することに特化したシステムなんですね。

――競技スポーツと生涯スポーツが乖離している。

為末:そういうことです。でも、それは一概にスポーツ界の側の責任というよりも、たとえば学校のグランドやプールを開放して事故が起きた場合は校長先生の責任になってしまうので、施設開放を嫌がる傾向があるんです。公園を気軽に利用するように、学校などの施設を使ってスポーツ環境を整えていくことが日本は苦手なんですね。

――それは、改善傾向にあるんですか?

為末:私がオリパラのレガシーを全部決めていいのなら、「すべての日本人が15分以内にスポーツ施設にフリーでアクセスできること」という公約を掲げて招致運動をしたと思います。東京都民の人々のスポーツ環境がよくなって、みんながスポーツ好きになり、その結果、オリンピックやトップアスリートたちを応援する、という構造が理想的だと私は理解しているので、そのためには誰もがスポーツ施設にアクセスしやすくすることがとても重要だと思います。

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