桐生祥秀が勝てなかった天才スプリンター日吉克実「桐生がいなかったら僕は違った人生を歩んでいたかもしれない」 (3ページ目)
「桐生に勝つことは、どう考えても無理でしたね。もうイメージが湧かなかったし。だからリレーであれば、もう一度日本一になれるという思いがありました」
奇しくもインカレの4×100mリレー当日、桐生は100mで日本人初の9秒台を出していた。世間の耳目が桐生に注目しているなかでリレーがスタートした。日吉は中央大学の3走、桐生は東洋大学の4走。同じ区間を走ることはできなかったが、東洋大学を振りきり、中央大学は優勝を果たした。
「とにかくうれしかったです。全国大会で一番高い表彰台に立てたのは久しぶりで。僕の上にはずっと桐生がいましたから」
卒業後も陸上を続けたが、ケガの影響もあり、思うような練習ができなかった。そのため2018年9月に引退を決意。一度は頂点を極めた陸上競技から身を引いた。
「トータルしたらとても幸せでした。中学の200mの記録を見れば、いまだ誰も見たことのない領域に入れましたし、なかなか見られない景色もたくさん見られました。陸上人生の後半はかなり苦しみましたが、それも贅沢な悩みかなと。頂点に立てる人がほとんどいないなか、僕はつらかったとか、しんどかったとか言えないのかなと思います」
桐生という圧倒的な存在の前に霞んでしまった自分の状況についても後悔はない。今でも交流のある桐生について聞くと、日吉はこう答えた。
「もう降参していました。白旗です。強すぎて速すぎました。別格です。歯がゆかったですよ。いいなーと思っていました」
次々出てくる桐生を賛辞する言葉。そう言って笑った日吉の顔は、清々しかった。
■インタビュー後編「桐生祥秀選手に見に来てほしい?」の質問に「まだダメ」>>
【Profile】
日吉克実(ひよし・かつみ)
1995年5月8日生まれ、静岡県出身。小学5年から陸上を始め、中学の時にはジュニアオリンピック三連覇を達成。3年時には100m、200mで中学新記録を樹立した。高校・大学でも好成績を残し、大学4年の全日本インカレの4×100mリレーで優勝を果たす。大学卒業後も競技を続けるが、2018年をもって陸上競技を引退した。そして2022年に日本競輪選手養成所に入所し、翌年3月に卒業。2023年4月から競輪選手としてデビューする。
【画像】競輪界のチア「PIST6ダンサーズ」
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