アドベンチャーレーサー田中陽希「殴られる意味がわかっていました」。仲間との過酷なレースで得た精神的成長
プロアドベンチャーレーサー・田中陽希インタビュー前編
2014年に人力のみで日本百名山を完登する旅「日本百名山ひと筆書き Great Traverse(グレートトラバース)」に挑んだプロアドベンチャーレーサー田中陽希。その後、2015年に2百名山、2018年から昨年8月にかけて3百名山の旅を終え、日本全国計501座の山を完全踏破した。長い挑戦を終えた田中が今、自身の半生を振り返り、未来を見据える。前編では、自然をフィールドに多種目のアウトドア競技を行なうアドベンチャーレースを通した「精神的成長」を語る。(記事中敬称略)
アドベンチャーレースでの学びを語った田中陽希この記事に関連する写真を見る田中陽希 「日本百名山ひと筆書き」を2014年10月にやり終えて、人生がガラリと変わりました。挑む前、「自らを変えたい」という強い気持ちとともに、歴史をさかのぼっても初めてのことでわからないことも多く、勇気が必要でした。
私が以前から参加していたアドベンチャーレース(以下AR)で学んだことや、そのチームの仲間からのアドバイスが支えになりました。そもそも自然に近いARに身を投じていなければ、百名山全山を自分の足で歩いて、海を渡ってという発想もしなかったでしょう。
「百名山」の完遂で得心したのは、ひとりの人間として何かに挑戦し、かつ、達成することが自信につながり、さらにその先の世界が見えてくるということ。もうひとつ、日本国内ではARの認知度は低く、私のこのような行動が話題になることで、ARへの注目度が増し熱量を帯びてくることを希望に思いました。
あるイギリス人の言葉に呆然
今から10年前の28歳の時、(世界有数のARである)南米のパタゴニアエクスペディションレースで準優勝しました。その時、先を行くイギリスのチームの主将に「毎年なぜそんなに強いのか」と聞いてみました。すると、彼は「いつでも選手がそろっていて、そのなかで調子のいい者を選んでいるからだ」と。
「一緒に生活し、トレーニングをしているのか」の質問には、「ふだんはそれぞれの生活があり、それぞれ活動している。お互いに信頼し合っていて、各自が挑み、高めている」との回答でした。かたや我々のチームは、まず出場可能なギリギリの人員しかいません。そのせいか、共同生活でトレーニングし、寝食をともにすることで質や体力、コミュニケーション能力を上げよう、つまりチームワークを磨くことで、体力や経験の差を埋めようとしてきたように思います。
南米の大自然を舞台にしたパタゴニアエクスペディションレースこの記事に関連する写真を見るこの記事に関連する写真を見るこの記事に関連する写真を見る
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