小平奈緒、平昌五輪金メダルの裏にあった男子との練習。「男子のスピードで滑るのが当たり前に感じる錯覚」で強くなった (4ページ目)

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

 小平の次の組だった李は、100mを10秒20で通過したが、ゴールタイムは37秒33だった。全レースが終わったあと、地元開催の五輪での3連覇を逃した李は、涙を流しながら国旗を掲げてリンクを滑った。滑り寄った小平は李の肩を抱いて言葉を交わした。尊敬するライバルであり、プライベートでは互いの家を行き来する親友だ。小平は「たくさんのプレッシャーのなかでよく戦った。今もあなたを尊敬している」と言い、李は「私もあなたを誇りに思う」と応えた。

 平昌五輪の前、小平は31歳で迎える五輪を「駆け抜けたい」と話していた。五輪は自分にとって終着点ではない、と。2006年トリノ五輪で1500mの金メダルを含めて5個のメダルを獲得したシンディ・クラッセン(カナダ)は、その直後の世界選手権やシーズン最後のレースで、3000mと1000mの世界記録を連発していた。グラッセンのように、次への勢いをつける五輪にしたい、と。だからこそ、大舞台で低地での36秒台という目標を果たしてもなお、小平は「まだまだ目指したいものがありますから」と話した。

 平昌五輪後のW杯は出場しなかったが、記録への挑戦は翌2019年3月にソルトレークシティで開催されたW杯ファイナルで実現した。世界歴代2位の36秒47と36秒49を出し、その翌週にはカルガリーで男子のレースに特別参加をして36秒39。だが、李が持つ世界記録の36秒36には届かなかった。

 悔しさはあっただろう。だが、その時は2016年9月からの500mの国内外連勝記録がストップした1カ月前の世界距離別選手権で、片足ではしゃがめないくらい股関節に違和感がある状態だった。

 その後、違和感を解消し2022年北京五輪に向かう小平にとって、その時のアクシデントは、氷の神様から「あなたにはまだまだスケートの神髄を追及してほしい」という希望を伝えるものだったのかもしれない。

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