病室での断髪式。異色のモンゴル出身力士・時天空、涙の引退秘話 (4ページ目)

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 それから始まった本格的な治療は、非常に過酷なものだった。特にメンタル面でのダメージが大きく、日々落ち込むことが多くなり、将来への不安に苛(さいな)まれた。そんな状況にあっても、最後は「土俵に復帰するんだ!」という強い気持ちが、時天空をぎりぎりのところで支えていた。

 そうして、いくつかの治療にチャレンジし、徐々に回復の兆しが見られるようになったのは、今春だった。体力面も落ち着いて、体が動かせる状態になると、トレーニングジムに通うようになった。あくまでも現役復帰にこだわり、どんなことがあっても「力士・時天空」であることを諦めるつもりはなかったからだ。

「あばら骨のヒビ」を理由に休場していた時天空が、師匠を通じて本当の病名を公表したのは今年1月のこと。それ以来、同じ病と闘う人たちからの、勇気づけや励ましの声が増えて、時天空にとっては、その温かい声援が大きな支えになっていた。だからこそ、土俵復帰を目指して「そうした人たちの励みになりたい」という気持ちが強かった。

 とはいえ、実戦を離れてから半年以上の入院、治療生活を重ねてきた人間が、そう簡単に力士の体を取り戻せるはずはなかった。治療と同時進行のため、無理するわけにもいかない。思うような体作りができない時天空は苦しんでいた。

 それでも、時天空はトレーニングをやめなかったが、悶々とする日々が続くなかで、次第に彼自身の考えも変化していった。

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