【大相撲】エリート御嶽海は、学生相撲出身のジンクスを破れるか? (3ページ目)

  • 福留崇広●文 text by Fukutome Takahiro photo by Kyodo News

 一方、学生出身力士は、社会的には大学卒という「学歴」を手にしている。土俵を捨てても生きていく手段は担保している。加えて、土俵に人生を捧げるというよりも「就職」という感覚で入門する力士が存在することも事実だ。十両に上がれば100万円程度の月給を手にできる。一般企業に就職した同年代の5倍以上の収入が手にできる。このため、関取になるまでは必死で稽古に汗を流すが、給料を手にする番付になると、ひと安心する力士が多いことは否めない。

 また、周囲にもこうした空気が流れる。以前、小学生の全国大会「わんぱく相撲」を取材した際、上位に進出した選手の親に「なぜ、相撲をやらせているのか」と聞くと「相撲なら他のスポーツと違って競技人口が少ないので、大学までスポーツ推薦で入学しやすいから」と答えた親がいて、その将来設計に驚いたことがある。こうした空気の中で育てられると大相撲は、そのまま「就職」となり、「裸一貫で人生を土俵に捧げる」という力士への古きよき憧れは、もはや幻想と言えるのかもしれない。

 ただ、これまでの歴史を振り返ると1990年代後半から躍進した武蔵川部屋勢の学生出身力士は違った。「プロになるなら、厳しい部屋しかないと思っていました」と、元大関の雅山(現・二子山親方)は自らのすべてを土俵に捧げる覚悟で入門したことを現役時代に打ち明けてくれた。力士として高い志を持ち、過酷な猛稽古に耐えた武蔵川勢。だからこそ、武双山(現・藤島親方)、出島(現・大鳴戸親方)、雅山といずれも学生相撲出身ながら大関にまで昇進したのだろう。

 御嶽海に期待したいのは、この「志」だ。卒業を前に公務員になろうとしていた御嶽海が“入門”へと翻意した理由は、幕内力士が途絶えていた角界きっての名門「出羽海部屋」の再興と、御嶽山の噴火で苦しむ故郷を勇気づけたいという思いだった。決して後には戻れない力士道。得意の突き押しと同じように高い志を掲げ、大関、さらには横綱へ駆け上がってほしい。

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