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坂本花織の涙、イリア・マリニンのド派手な逆転劇、17歳・中井亜美の台頭......「五輪前哨戦」GPファイナルを振り返る

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 五輪シーズンのグランプリ(GP)ファイナルは、やはり特別な空気が流れる。五輪出場がかかる全日本選手権につながる"前哨戦"の側面もあるからだろう。そのスパイスが、世界でたった6人しか出られない最高峰の大会をさらに特別に仕上げるのだ。

 当然、緊張感は半端ではない。今までうまくいっていたジャンプがうまくいかない。うまくいかなかったはずのジャンプがうまくいく。そこに生じた重力を敵にするか、味方にするかでスケーターたちは岐路に立つ。

 男子シングル、女子シングル、彼らはいかにファイナルを戦ったのか?

GPファイナルで日本勢トップの総合2位に入った中井亜美GPファイナルで日本勢トップの総合2位に入った中井亜美この記事に関連する写真を見る

【イリア・マリニンが見せた異次元の強さ】

 男子シングルは、鍵山優真が2位、佐藤駿が3位でそれぞれ力を示した。どちらも昨シーズンのGPファイナルと同じ順位だった。約2週間後の全日本の結果次第だが、ふたりは五輪出場に王手をかけたと言っても過言ではないだろう。さらに言えば、世界でもメダルが射程距離圏内に入った。

 焦点は、世界王者イリア・マリニン(アメリカ)とどこまで戦えるのか、だ。

 今大会、マリニンはショートプログラム(SP)で大きく出遅れている。代名詞のクワッドアクセルは回転不足で失敗。首位に立った鍵山に14点差以上も離されていた。ところが、圧巻の演技で巻き返す。

 フリーはクワッドアクセルを含めて6種類7本の4回転ジャンプをすべて着氷。自身のフリー歴代最高得点を更新する238.24点を記録した。6位のミハイル・シャイドロフ(カザフスタン)の合計242.19点に迫る勢いで、ド派手な逆転優勝をやってのけたのである。

「彼は別で......次元が違う」

 佐藤がそう言ってしまうほど、破格の構成、点数だった。

 もっとも、佐藤はマリニンをSPではリードし、フリーでも食らいついていた。マリニンの次の演技で会場がふわふわした空気になるも、取り込まれることなく、上質な演技でフリーでも3位に入る演技を見せた。

 また、鍵山はSPで4年ぶりに自己ベストを更新して首位に立った。自身が北京五輪で作った高い壁に挑み続け、見事に乗り越えている。フリーは2本の連続ジャンプのセカンドが3回転のところで2回転になってしまい、4位となったが......。

「正直、めっちゃ悔しいです。(コーチである)父にも『世界一を取ろう』と言ってもらって、自分に集中し、やる気もみなぎっていたんですけどね」

 鍵山は悔しげだったが、どこか明るかった。完成形はこれからだ。

 日本のトップスケーターふたりは切磋琢磨を続けてきた。マリニンは異次元だが、無敵でもない。勝機は必ずある。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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