坂本花織の涙、イリア・マリニンのド派手な逆転劇、17歳・中井亜美の台頭......「五輪前哨戦」GPファイナルを振り返る (2ページ目)
【本命不在のまま五輪の決戦へ】
女子シングルでは、日本人選手が坂本花織を筆頭に千葉百音、中井亜美、渡辺倫果と6人中4人で、まさに百花繚乱だった。表彰台独占も不思議ではない威勢を誇る。彼女たちは"明暗を分けた"という意味でも主役だった。
SPでは坂本がルッツをノーカウントにしてしまい、図らずも波乱の主役となった。本人も呆然とするほど、練習でも見られないミス。現役最後のシーズン、演技後はこみ上げる涙に声を震わせていた。
一転、フリーでは貫禄の1位だった坂本は、総合3位に滑り込んでいる。ちょうど取材エリアで、その事実を知った彼女は膝から崩れ、スタッフから渡されたティッシュで涙をぬぐっていた。これもひとつの物語だ。
一方、SP1位だった千葉は、脚光を浴びていた。他を寄せ付けないほどの明るい演技だった。フィニッシュポーズは、まさに主役の表情だった言える。ところが、フリーでは2度の転倒があって6位に甘んじ、総合5位と表彰台からも滑り落ちた。
「今まで感じたことがないくらい力が入らず......練習してきたことを出せなかったことが、一番の屈辱です。頑張ってきた自分を裏切ることになってしまいました。いつもだったら悔しさがこみ上げてくるはずなのに、今は気持ちが空っぽで」
千葉は虚ろな表情で語り、気の毒なほどだったが、全日本では再生のヒロインとなれるか。
渡辺はSP、フリーで3本のトリプルアクセルに成功した。大舞台でこれは簡単なことではない。細かいジャンプのミスが目について、総合6位だったが、トップとも15点差しかない。
「渡辺は爪痕を残してくれました。プレッシャーのなかで戦い続けてくれて。思ったような結果ではなかったですが、今の倫果が最高ですね」
中庭健介コーチは、渡辺の健闘を称えていた。
総合2位で躍進を遂げたのは、渡辺と同門(MFアカデミー)の中井だった。SPは冒頭のトリプルアクセルがステップアウトも、その後はプログラムの魅力を最大限に引き出していた。フリーはルッツのセカンドでトーループをつけられなかったが、フリップ+トーループでリカバリー。17歳とは思えない芯の強さを感じさせ、"何かをやってのけそう"という空気をまとっていた。
そして大会を制したのは世界女王、アリサ・リュウ(アメリカ)だった。同胞マリニンのように人間離れした技を繰り出すわけではない。しかし、プログラムの完成度がSP、フリーで高かった。どちらもトップに立てなかったが、トータルでそろえて優勝した。演技を通して力みがなく、鋼のメンタルではなく、しなって折れない竹や柳の境地というのか。
最後にアンバー・グレン(アメリカ)は、SPでトリプルアクセルがノーカウントになったのが響いた。フリーではトリプルアクセルに成功。総合4位で巻き返しは及ばなかったが、五輪に向けては挽回してくるはずだ。
GPファイナルを五輪の前哨戦と捉えた場合、女子は「本命不在」といったところか。6人にメダルのチャンスがある。竜虎相うつことになるだろう。次の物語の予感だ。
著者プロフィール

小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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