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羽生結弦が『RE_PRAY』に込めた問いかけ「人生が繰り返されるなら何を選んで何を感じる?」 (3ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

【常識にとらわれないスタイル】

 そんななかで新鮮だったのが、『破滅への使者』の前に踊った『Megalovania』だった。曲が流れる前に氷上に登場した羽生は、ゆっくりと滑りながら何度もスケートを氷に叩きつけて大きな音を出した。まるでフラメンコのステップのようなキレのある音。

 さらに力強く滑り出すと、エッジが氷を削る音が鋭く響く。スピンで回転する音さえも、独特のリズムを感じさせ、そのまま音楽がないなかで彼自身が音をつくり出した。そして、曲が流れると、ジャンプは跳ばずに何度も繰り返すスピンだけで濃密な空気をつくる滑りを見せた。

「ストーリーを考えたなかでのピースとしてのプログラムというのもあったが、あとはその原曲や原作へのリスペクトみたいなものもあって。『Megalovania』という楽曲は、『アンダーテイル』という物語(ゲーム)があって、そのなかの戦いで無音の部分があるんです。敵が必殺技を繰り出してくるけど、その敵の攻撃の音だけが聞こえるシーンで。それがカッコいいと思ったしそれを組み込んだら......。

 それまではストーリー的に皆さんが見ているなかで、プレーヤーの羽生結弦とゲーム内にいるエイトビットの羽生結弦と、滑っている羽生結弦みたいなものが分離して見えていたかもしれないけど、そこで無音のなかでつくり上げていったら、『ゲーム内のキャラだったのかな?』みたいなことが、だんだんとつじつまが合ってくるのでは、と。どういうふうに皆さんの頭のなかを整理していくかみたいなことを、演出や物語のなかで考えました」

 これまでの常識にとらわれないスタイル。採点という制約がないプロの世界だからこそ発想できる、新たな表現世界。プロアスリート・羽生結弦の世界は、これからまだまだ広がっていく。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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