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樋口新葉が手にした余裕 再起で初めて気づいたスケートの「面白さ」を語る (3ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

●復帰までの思いをプログラムに込めて

 新シーズン、SPはまだ決まってない。フリーは『Fix You〜Paradise』で、シェイ=リーン・ボーンの振り付けになるという。

「昨シーズンを休んでから復帰するので、その思いを滑りで表現できたらなって思っています。最初はマイナスな気持ち(曲調)から入るんですが、滑りながら最後のステップは楽しい気持ちで。その時に思っていることを試合で出したいですね」

 明治大学を卒業し、社会人になって心境の変化もあった。大学生活も充実していたが、今はスケーティングに集中できる環境を得ていた。スケートと向き合う時間は自然と多くなった。

「悔いの残らない1年にしたいです」

 樋口は言う。今回の合宿ではザカリー・ダナヒューコーチから熱心な指導を受けていた。

「滑らせるために、上半身を曲げるのではなく膝とか下半身を曲げ、力強く押し出す、という教えを先生から受けています」と語るように、スケーティング技術の習得を楽しんでいた。今まで意識しなかった点も、突き詰められるようになったという。

 持ち前のパワフルさは変わっていない。肉体的爆発力は、日本人女子でも屈指だろう。反骨精神も健在。合宿では、なかなか成功しなかった3回転ループを4度にも及ぶ挑戦で成功させ、スタンドから拍手を受けていた。

 試合勘の空白さえ埋められたら、異次元の領域に突入するのではないか。グランプリシーズは第3戦のフランス杯、第5戦のNHK杯に出場予定だ。

「楽しくスケートができているので、復帰してよかったなって思っています!」

 樋口新葉が氷上に戻ってきた。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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