本田望結が追求する表現。目指す「拍手が起こらない演技」とは? (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 本田は、物心ついた頃からフィギュアスケートに夢中だった。女優の仕事と並行した活動になったが、少しも妥協したことはない。彼女なりの二刀流だ。

「小さい頃は体力があり余っていて、疲れも感じなくて、少しでもフィギュアスケートの練習をしようとしていました。(東京で)お仕事が終わって、(練習時間の)残り3分にでも間に合えばいいから(地元のスケートリンクへ)練習に通っていました。帰りの新幹線で2時間半、乗車したら(到着の)時間は決まっているのに、早く、早くって祈っていました。どれだけ祈っても変わらないんですけど。

(リンクに着いたら)スケート靴を履いて (リンクに)入ったところで、(練習終わりの)時間になっちゃったこともあって。先生の『今日は間に合わなかったね』の言葉を聞いて、間に合わなかったけど(頑張りを)認めてもらえたうれしさか、間に合わなかった悔しさか、泣いてしまって。3分のために来たのに、トイレにこもって15分くらい泣いていました」

 本田は皮肉っぽく言って、肩をすくめた。フィギュアスケートとの付き合い方を、裏切ったことはない。例えばリンクから降りる時、必ず一礼する。他の選手がしなくても、彼女だけはどんなときもあいさつを欠かさない。フィギュアスケートをする時間が限られてきたからこそ、滑れる幸せを愛おしむ。

 19年の西日本ジュニア、本田はあと一歩のところで全日本ジュニア出場を逃したことがあった。悔恨か、屈辱感か、演技後の表情は険しかったが、インタビューには丁寧に答えていた。そして、部屋の隅にあるベンチに座ると、スケート靴をきれいに拭き、大切にしまっていた。道具への愛着は、ともに戦ってくれた感謝と、次も頼むよ、という決意に映った。

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