2020.12.07

羽生結弦の名プログラム誕生の背景「今の自分だからこそできる」

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

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『羽生結弦は未来を創る〜絶対王者との対話』 
第Ⅳ部 芸術性へのこだわり(3) 

数々の快挙を達成し、男子フィギュアスケートを牽引する羽生結弦。常に挑戦を続ける桁外れの精神力と自らの理想を果敢に追い求める情熱を持つアスリートの進化の歩みを振り返る。世界の好敵手との歴史に残る戦いや王者が切り拓いていく未来を、長年密着取材を続けるベテランジャーナリストが探っていく。

2015年、ドリーム・オン・アイスで『SEIMEI』のアイスショーバージョンを披露した羽生結弦2015年、ドリーム・オン・アイスで『SEIMEI』のアイスショーバージョンを披露した羽生結弦  2015年6月、羽生結弦は新横浜スケートセンターで開催されたアイスショー「ドリーム・オン・アイス」で、2015ー16シーズンのフリー曲『SEIMEI』を初披露した。初めての"和"への挑戦だった。その決意の裏には「今の自分だからこそできる」という意識と、「自分がやらなければいけない」との強い思いが込められていた。

『SEIMEI』は笛と太鼓の音で力強く始まる映画『陰陽師』の曲を使用している。タイトルは羽生自ら名付けたもので、大文字のローマ字表記にしたのは、映画の題材となった平安時代の陰陽師である安倍晴明の名前にちなむとともに、「同じ発音の日本語が持つ、多様な意味を込めたいから」だという。

「今シーズン(2015ー16)は、自分の幅を広げてみようという思いがあって、いろいろな曲を聴いてみました。なかなかしっくり来ないまま、自分に合うものは何なのか試行錯誤して考えているうちに、『和モノもいいかな?』と思い浮かんできました。日本のテレビドラマの音楽なども聴いて、海外の人も観られるほうがいいと思い(映画の)『陰陽師』を選びました」

 羽生には、「今の日本男子で、和のプログラムを表現できるのは自分しかいない」との強い自負があった。羽生ならではの繊細さや、和の力強さ、体の線の使い方を突き詰め、自分らしいプログラムにしていくことがこのシーズンのひとつの挑戦だった。

 振り付けを担当したのは、前シーズンのフリー『オペラ座の怪人』で初めて組んだシェイリーン・ボーン。再び彼女に依頼したことについて、羽生はこう説明した。

「彼女の振り付けの中で、自分の得意な動きがまだ確実にできていないし、お互いが完璧に理解し合えているわけではないと思います。そういう意味では、ジェフリー・バトルさんに作ってもらった『パリの散歩道』(2013ー14シーズンのショートプログラム=SP)を滑り込んで、自分のものにできたように(ボーンの振り付けも自分のものに)したい。また、『SEIMEI』のようなテイストの曲は日本人に作ってもらったほうがもっと和の雰囲気が強くなると思いますが、あまりにも日本らしくし過ぎるのはどうなのかな? という思いがあったので、(カナダ人の)ボーンさんにお願いしました。世界から見た日本のすばらしいところもピックアップできればと考えました」