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【40代現役アスリートの矜持】比類なきキャリアを歩むボクサー・近藤明広に四十路で世界挑戦の声がかかった理由 (2ページ目)

  • 杉園昌之●取材・文 text by Masayuki Sugizono

【理解者の妻も「話が違うでしょ!」】

網膜剥離を患った時もそれで引退するとは考えていなかったという photo by Shogo Murakami網膜剥離を患った時もそれで引退するとは考えていなかったという photo by Shogo Murakami 2025年4月3日、笑顔の絶えない家族に囲まれるなか、健康な体で40歳の誕生日を迎えた。21歳からプロのリングで戦い続けながら、大きなダメージも負っていない。あらためて、家庭の幸せを噛みしめた2カ月後である。国内での引退試合ではなく、中国でWBAアジアスーパーライト級タイトルマッチが決まったのだ。前回のベルギーと同じように最高のシナリオを頭に描いた。ただ、今回こそはたとえ望んでいる結果が出なくても、中国の興行を含めて、残り2戦で引退する意思を固めた。

 準備も順調に進み、試合まで残り1カ月に迫った時期だった。近藤は1年前を思い返し、手で右目を押さえて思わず苦笑する。

「練習中にやっちゃって......。網膜剥離でした。自分はずっと頑丈だと思っていたので、この僕でもなるんだなと思いました」

 当然、試合はケガのために棄権。すぐに入院し、手術することになった。病院のドクターから説明を受けると、ボクシングを続けられる可能性は30%。1回目のオペで成功すれば、再びリングに上がれる。うまくいかないときは再びメスを入れ、引退するしかない。それでも、絶望はしていなかった。

「僕は"強運"の持ち主なので30%もあれば、大丈夫かな、と。診断を聞いたときも引退する選択肢はなかったですね。妻はこれでやめるものだと思い、安心していましたが、僕自身はケガを理由に辞めるのは絶対に嫌でした。網膜剥離に負けたみたいですから。好きでここまで続けてきたボクシングなので、やめるときも自分の意思で決めたいと思って」

 目に見えない、運を引き寄せる力があるのかもしれない。手術は無事に成功。病院は1週間で退院し、2週間後にはジョギングを開始した。現役を続行することを妻に伝えると、当たり前のように猛反対された。いつも最終的には許してくれる伴侶も『絶対にダメ。いい加減にしてくれ』と青筋を立てていた。

「毎日のように『やる』、『やらないで』の応酬が続いたのですが、ある時、妻に言われました。将来、『もっとやりたかった』、『やり残した』と言われると、私はぶちギレてしまう。やめてほしいのにずっとそばで支えてきた、私が報われないと。だったら、とことん、やりきってくれって」

 気の強い妻が折れたのは、長年サポートしてくれている支援者、変わらず応援してくれるファンの前で最後に試合を見せるという話をしたからだ。人情味のある女房は「それが筋だよね」と理解を示してくれた。当初は近藤も、そのつもりでいたのだ。

 人間万事塞翁が馬--。プロ54戦目のリングは、東京から9000km離れたドイツの首都ベルリンだった。まさかの急展開に妻が語気を荒げたのも無理はない。

「話が違うでしょ!」

 5月下旬、出発の前日まで産廃業の仕事をこなしていた近藤は侍魂を胸にトレーナーら数少ないスタッフ陣とともにカタールのドーハを経由し、ドイツへ旅立った。 

後編につづく:「"負け"に負けなかったことは、人生の糧に」近藤明広が20年のプロボクサー生活を継続できた理由

●Profile
こんどう・あきひろ/1985年4月3日生まれ、埼玉県出身。白鷗大学足利高(栃木)3年時にはインターハイ・ライト級で準優勝を果たす。東洋大に進学後も競技を続けるが、2006年4月に中退してプロに転向。2007年12月に全日本ライト級新人王、2009年8月に日本ライト級王者となる。2014年に日東ジムから一力ジムに移籍。初の世界王座挑戦は2017年11月、アメリカ・ニューヨークでのIBF世界スーパーライト級王座決定戦(判定負け)。2022年には東洋太平洋スーパーライト級王座を奪取。その後も日本ボクシングコミッション(JBC)非公認の団体も含めて世界王座に3回挑戦した。これまでのプロ戦績は54戦37勝(21KO)14敗3分け。

著者プロフィール

  • 杉園昌之

    杉園昌之 (すぎぞの・まさゆき)

    1977年生まれ。スポーツ総合出版社の編集兼記者、通信社の記者として働いた後、フリーランスのスポーツライター兼編集者へ。現在はサッカー、ボクシング、陸上競技、野球、五輪競技全般とジャンルを問わずに取材している。

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