検索

【プロレス】付き人時代の藤原喜明が見たアントニオ猪木の弱気な一面、モハメド・アリ戦を前に「勝てるかなぁ」 (3ページ目)

  • 松岡健治●文 text by Matsuoka Kenji
  • photo by 東京スポーツ/アフロ

【猪木がとった「アリキック」戦術】

 藤原は猪木の心を懸命にサポートした。

「冷蔵庫で、ビールをキンキンに冷やしておいたんだ。猪木さんはアリ戦に備えてアルコールは断っていたんだけど、俺はある日、練習が終わったあとにビールをコップいっぱいついで、『お疲れさまでした』って持っていたんだよ。少しでも気持ちを前向きにしてほしいと思ってな。そうしたら猪木さんも、俺の気持ちを汲んでくれたのか、笑顔で『一杯だけな』って飲んだんだ。それで一気に流し込んで、『ありがとう』って言ってくれたよ。

 ビール一杯なんて、小さな安らぎでしかない。それに感謝してくれたのはうれしかったけど、今思えば、心の起伏がそれだけ激しかったってことだよな。死ぬか生きるかって試合なわけだから、当たり前だけどな」

 そうして迎えたアリ戦。藤原はセコンドについた。3分15ラウンドの闘いのルールで、猪木は蹴り、投げなど、あらゆるプロレス技を禁じられていた。その1ラウンドで、猪木はいきなり、スライディングでアリの足をめがけて蹴りを放った。それは空振りになったが、15ラウンドを通じて仰向けに寝転がり、蹴りを放つ作戦を徹底した。

「俺は詳しいルールを聞かされていたわけではないけど、『猪木さんは何もできねぇな。がんじがらめだな』と思ったよ。だから、あの作戦しかなかったんだ。猪木さんは、考えに考え抜いてあの蹴りを出し続けたんだと思うよ」

 後に「アリキック」と呼ばれることになる蹴り。試合前の藤原との練習では「一度も試していなかった」という。

「俺が思うのは、猪木さんのコンディションが素晴らしかったなってことなんだ。リングを照らすライトは暑くて、40度以上あったんだよ。しかも相手はアリ。スポーツ界にとどまらず、世界的に有名な人物だった。スポーツマンというより"神"に近い存在だったんだ。

 それを倒そうっていうんだから、大変なことなんだよ。猪木さんは鬼になって蹴り続けた。すさまじい緊張感だろ? だけど猪木さんは、15ラウンドもあの状態で蹴り続けたんだな。コンディションが万全じゃないとできない。『やっぱり、アントニオ猪木は素晴らしい』と思ったよ」

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る